かーきアサヒの建築手記

建築デザインについての時短術や現留学先での生活の違いを面白くまとめていきます

MasterClassは実際どうなの??フランク・ゲーリーの授業を実際に視聴してみた!

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YouTubeの動画の広告にもたまに出てくるこのMasterClassと呼ばれるこの動画プラットフォーム。

 

音楽、デザインファッション、エンターテインメント、ビジネス、筆記、調理、パフォーマンス、撮影、スポーツなどの各分野で世界的に実績をあげた人たちによるノウハウや実用的なテクニックの伝授をする、といった動画コンテンツになります。

 

二年ほど前から気にはなっていたのですが、このMasterClassの会員、一授業につき$90、年間会員は$180はという費用になっており、学生にはかなり高い買い物なので、当時気軽には視聴はできませんでした。今回は友人に授業ギフト券をもらった機会に、このF・ゲーリーの動画の一部を取り上げてMasterClassとは何か?実際に買って見る価値はあるのか?その内容をまとめてみようと思います。

MasterClassとは

YouTubeにも公式のチャンネル(現段階で47万人登録者数)を持っているMasterClassですが、ディズニーCEOのBob Iger、シェフのGordon Ramsay、EM(電子音楽)プロデューサーのdeadmau5や撮影家のAnnie Leibovitzなどの世界的に活躍されている人気著名人によるインストラクト動画を有料で配信しているサービスです。

動画は英語になりますが、今後多国語の字幕がさらに追加される可能性もあります。各インストラクターの授業内容は公式のサイト内で概要をチェックできるので、購入前検討する際に役に立つでしょう。


Frank Gehry: The Proof Is in the Parking Lot | MasterClass Moments | MasterClass

 


Frank Gehry Masterclass Review

ギフトでもらったフランク・ゲーリーの授業

フランク・ゲーリーは建築界のノーベル賞たるプリツカー賞の受賞者でもあり、世界的にも有名な建築家です。

有名な建築作品はスペイン北部ビルバオにあるグッゲンハイム美術館であり、その特徴的なチタニウム合板をまとった船のようなフォルムの建築で年間100万以上の観光客を35万人の街に引き込んだことで、地域の活性化に大変貢献をし、”ビルバオ効果”とも呼ばれた、建築がもつポテンシャルの力を世界に知らしめた人でもあります。

すでにメディアでの取材などを通じてF・ゲーリーの建築家としての実力や考えについてある程度の認識はあったのですが、動画内での様々な質問に対して思いにふけるように返答をしていくF・ゲーリーを目にして、様々な苦労をされてきた方なんだな、といった印象を持ちました。

ミース作のファンズワース邸への批判と反省

F・ゲーリーが具体例を挙げたなかでミース・ファン・デル・ローエの手がけるファンズワース邸についての批判をしていた動画部分がありました。

建築科での授業で必ず取り上げられるファンズワース邸ですが、ミースの建築思想が強く反映されたこの別荘、建築界では賛否が分かれているですが、F・ゲーリーはこの作品について、「Over Power」と批判していました

 

  • ミースはディテールの純粋さを追求するあまりに工業製品を使っていたにかかわらず、特注の部品を多用したため、建造費用が大きく膨れ上がったしまったこと洪水の過去データから床下の高さをギリギリに設定していたため、百年に一度の洪水の際に別荘が浸水してしまい、ファンズワース氏の別荘に深刻な浸水被害が出てしまったこと全面ガラス張りになっているため、プライバシーが守れないなどのことを理由にファンズワース氏はミースに対して多額の裁判訴訟をしていたことがわかっています。

 

F・ゲーリーは特にあまりにも純粋さに焦点を置いた完璧な別荘にしたため、個人のプライバシーや住宅としての機能を放棄したことに反感を抱いておりました。

彼が実際にミースの住宅の書斎に訪問した際に、ファンズワース邸とは全く違う、家具や本棚、そして本が床に積み上がったようなインテリアを見るに、ミース自身はプライバシーの守られた、生活感あふれる暮らしをしていたにもかかわらず、ガラスの宮殿のような建築を顧客に押し付けてしまったことを、そして建築空間そのものが住宅として機能よりも主張をしてしまったことに反省をするべきだと述べておりました。

高層ビルへの批判と試行錯誤

高層ビルのデザインにあたって、都市の顔になるであろうビルのデザインはクライアントがお金持ちであればあるほど、完結で洗練されたものを選ぶ傾向にあります。

ガラスで作られたビル群のファーサードには人に好かれるような要素はありません。まるでクライアントは自分に課せられた罪を洗い流すように、人を寄せつけない透明なガラスのファーサードを好むのだと、F・ゲーリーは話します。

 

F・ゲーリーは高層ビルのデザインをするにあたって、ビルにはどのような機能が必要なのか、どのくらいの費用でビルは立つのか、どんな形なら高層ビルでも実現可能なのかといった試行錯誤をするわけですが、自分の作った建築のアイデアをクライアントに受け入れられるわけではありません。依頼者は常に大きなリスクを犯しているので、建築家の創作を容赦なく現実的で無機質なものへと修正をさせます

 

しかしその厳しい状況でも、建築家は全体の形の15%を自由な創作に使えるのだと、F・ゲーリーは言っています。建築にアイコンとなる要素を織り交ぜて、無機質な都市に少しでも活気が溢れるように、そして高い地位にあるクライアントだけではなく、ビルに働く若い従業員にも好かれるような人に優しい建築を作ることが建築家に課せられた使命でもあるのです。

動画全体で一貫している内容

F・ゲーリーはMasterClass内の動画で、他にも技術的な内容や模型の制作、様々な実験に関する体験談を話していますが、一貫して建築家の職業責任、創作責任についての話をしていました。

 

職業責任は建築家として、基本的な職能、建築が構造物として成り立つこと、市民の安全を保証すること、建築として機能の問題を解決することなどが挙げられます

創作責任は芸術家として、自分の創作を発揮すること、そしてクライアントにその創作の代償を説明する義務があることそして独りよがりな創作を避けることなどが挙げられます

 

抜粋した内容以外にも動画では、様々なプロジェクト内で遭遇した問題や解決への過程、そして建築家としてのビジネスモデルのあり方、チームとしての働き方などをF・ゲーリー本人の口を通してわかりやすく簡潔にゆっくりと語られていきます。建築家や新しく建築を勉強する学生にはぜひ視聴してもらいたい内容です。

 

まとめ

今回はMasterClassの概要や、F・ゲーリーの動画内での内容を一部抜粋してまとめてみました。

 

F・ゲーリーがMasterClassの動画で語った内容は非常にわかりやすく、私が共感できる話ばかりでした。世界的な建築家の発言にはその内容を裏付ける確かな試行錯誤や自信があります。高い買い物にはなりますが、さらに建築を深く勉強したい、あるいは新たに建築を知りたい人へ向けて、このMasterClassの動画を強くおすすめします。