3Dモデリングソフトの性能があがり、レンダリングによる建築パースもほぼ現実の建築と変わらないようクオリティーになり、正直3Dモデルをデジタル媒介で見れるのなら、アナログの模型は作らなくてもいいのではないか?という疑問が生まれてくると思います。
しかし模型と3Dモデルはそれぞれ建築家にとって用途や意味合いが違います。
今回はその模型と3Dモデル、アナログとデジタルの媒介の違いについて解説していきたいと思います。
模型の特徴
重力
建築には様々な制限があり、その一番の代表として自然界には常に重力が働いています。逆に3Dモデルには物体を組み立てる段階では重力は働いていないので、3Dモデルの中では成り立っているように見えても、実際に建造物として合理的に建てられるわけではないという場合があります。
複雑な構造をデザインした場合、力学的な計算を経て検証しなくてはなりませんが、普段建築士たちは簡単な構造をモデュールで考えて、そのモデュールをレゴブロックのように組み合わせて全体像を制作していきます。
そして模型を手作りで作れる範囲内のデザインであれば、実際に施工される時も大きなミスなく建造できるという証明にもなります。
デザイン初期
デザイン初期では模型は建築デザイン案の全体像を掴む、つまりスケールや大まかな形の予想を膨らますのに役に立ちます。レゴブロックを積み上げるように、直感的に空間を組み上げることができるうえ、ディテールをつくり込めないので、常にラフの状態でデザイン初期に討論しなくてはならない問題に焦点を置いて考えることができます。
3Dモデリングでは大まかな形を作ったあとに、スケールを調整してディテールもそのまま作り込めてしまうので、先に解決しなくてはならない問題が置き去りになってしまうことがあります。これが修正をしなくてはならなくなった場合、時間のロスとリスクになることがあるので、デザイン初期での模型の制作は非常に効果的なのです。
材料
模型によく使われる素材として、紙、木材や石膏、コンクリート、有機ガラス、プラスチック、鉄、発泡スチロールなどがありますが、これらの素材は写真で撮影した際に解像度が高く、照明を当てた際に表面の素材の違い反映してくれるので、素材が建築に与える印象をわかりやすく伝えるのに適しています。
建築士の中では手作りの模型を至高としている方も多く、なるべくラフスケッチと同じようにあえて手作り感を残すことで、建築模型に暖かい印象を与えることができます。
空間の全体像を掴む
模型は特別な理由がない限り1分の1スケール、等身大よりも小さく、図面のスケールより大きく(あるいは小さく)作ります。図面と模型のスケールが重複するのを避ける理由は、図面の内容ではなるべく空間の量的記載が重要視されますが、模型では空間の構成や縦横の繋がり、そして設計士の意図をわかりやすく伝えることが大切です。
住宅の建築では図面と模型のスケールが同じく1:100だとすると、図面の記載による情報量の多さと模型の家具や材料で示せる情報量を比較すると、1:100で作る模型のディテールは小さいがゆえに作りこみが難しくなり、図面の情報量>模型の情報量といった具合になります。なので、一般的に1:50ほどの模型を作ることが望ましいでしょう。
模型は地形の模型部分がどんなに大きくても、建築物が人の両手を広げたときの大きさよりも大きいことはあまりありません。これは、人の手で作る以上、一目で見渡せる規模の模型を作るほうが、実際に第三者が目にした時にフィギュア人形のように手に取れた方が(実際には手に取れませんが)その建築のイメージがしやすくなるからです。
3Dモデルの特徴
編集性(無重力)
無重力ゆえにディテールの掘り下げにはデザイン順序の概念がなく、空間を完全に封鎖したとしても、それをレイヤーごとに編集して空間内に家具やディテールを付け加えることができます。模型は一般的に完成図が先にあって制作をするので、途中での路線変更が効かない場合がありますが3Dモデルは段階的にデータを残せば修正が必要な時にそれらを編集することができます。これは無重力の3Dモデリングソフトならではの優位性だと思います。
変形
3Dモデルの既製品を自由にスケール変更することで、まるで現代イラストレーターのように素材のツギハギでモデルを完成させるという力技が可能になります。しかし変形を加えるということは元あったモデュールの有用性を再度検証しなくてはならなくなるので、安易に使っても良い手段ではありません。
デジタルデータ
3Dデジタルデータは、他人にモデルを共有することができるうえ、様々なプラットフォームで編集したり複製することができます。デジタル素材とPCさえあれば場所を選ばずに制作ができ、模型を数値化することで、数値による検証が簡単にできるという利点があります。
デザイン初期
結論から言うと、創作段階の3Dモデルにはリスクがあります。数値化出来るという利点は再現性の高さにも反映され、方法と手順と具体的な数値さえ知っていれば、100回繰り返しても100回同じ結論が生まれてしまいます。
創作の段階では、より良い方法を模索する必要がありますが、模型の場合完全に同じものを作ることはできませんし、些細な手順の違いでも結果が大きく左右されます。創作中で二度と同じものを作らない・作れないという点で、模型やラフスケッチが3Dモデルのデジタルデータよりも圧倒的に建築士に好まれるのだと思われます。
グラデーション
デジタル媒介でフィルターを使った方なら誰もが感じたことがあると思いますが、この操作、自分が想定したような結果にならない…そしてその調整に延々と時間を費やしてしまうということがあります。それはデジタル媒介での操作はプログラムコードの計算式で構成されていて、違和感の感じる操作はプログラムの計算式が現実に基づいたものではなく、計算を簡略化したものを使っているからです。
3Dモデルには重力がなく、ソフト内の物理演算も未熟であることがほとんどなので、現実の感覚と乖離があります。ゲームのバグとかがその良い例でしょう。
しかしそれはアナログの操作と近づけることで解決できることもあります。CADではなく、ペンタブで描く設計図を好む建築士がいますが、デジタル媒介であってもAからBへの変遷のグラデーションが実際に手で描くことでわかりやすく画面に反映されるので、細いデザインのニュアンスを素早く表現できるようになります。世に出回るアナログの手法がデジタルの手法よりも熟練していることも、操作のグラデーションに大きな差が出る要因のひとつだと思われます。
模型の写真とレンダリング図との比較
模型の写真は特に建築士のデザインの意図を深く伝えることができ、レンダリング図はクライアントに向けてわかりやすく建造後の効果を伝えることができます。
模型は常に俯瞰した視点で写真を撮るため、建築士同士で意図を伝える際には好まれます。ポートフォリオなどでレンダリングよりも模型の写真が好まれる理由は、模型のほうが情報の専門性が高く、製作者同士での意見交換がしやすいためでもあります。
レンダリング図はシーンでの人視点で製図し、デザインの全体の流れを説明する必要があるため、相当数の枚数(少なくとも5-10枚、角度が多少重複しても可)が必要になりますが、建築に詳しくないクライアントにはレンダリング図の表現が妥当でしょう。
まとめ
今回は模型と3Dモデルの違いについて解説してみましたが、模型は建築士同士のコミュニケーションに使用され、3Dモデルによるレンダリング図は建築士がクライアントに向けて制作するものだという結論になりました。
それ以外にもいろんな意見があると思うので、ぜひあなたの感じたことをコメント欄に残してもらえば、その意見も踏まえてより良い記事になるように編集を加えていこうと思います。
補足
建築のVisualizationやレンダリングについての記事をまとめています。