建築デザインのコンセプトについて解説をしていきます。
コンセプト
建築家は作品にコンセプトを打ち出し、そのコンセプトに特定の意図・目的を持たせることがあります。
コンセプトは解決すべき問題、手法、原型などの要素から成り立ちます。
プロブレム(解決すべき問題)
解決が困難な問題を順序立てて分析することは建築デザインでは一番基本的な内容になります。
問題解決の程度や数量で判断されますが、建築デザインの範疇内に収まらないものはたくさんあります。
プログラム(手法)
建築に採用する具体的な構造の形態、そして構造を模索するためプロセスを組み立てていきます。
プロトタイプ(原型)
オリジナルとなる型はArchetype(アーキタイプ)とPrototype(プロトタイプ)の二種類に分割することができます。
プロトタイプそのものには善し悪しはなく、あくまで思考する段階の着目点に過ぎないということが特徴です。
アーキタイプ
主に似た内容のコンセプト、対象のオリジナルとなるモデルを指し、物語や一人の人物、キャラクターを中心に展開できるものも含みます。
Arch-の接頭語が示す意味は、「統治者」さらに原理的で、本質に迫る概念になります。
プロトタイプ
主にオリジナルとなる形、繰り返しテストされるモデルを指し、暫時的なサンプルなどはプロトタイプに含まれます。
Proto-の接頭語が示す意味は、「第一」さらに原始的で、時間に関係する概念になります。
その他
コンセプトと混同しやすいものにアイデアがあります。アイデアとコンセプトを同じ概念という括りで捉える場合、コンセプトは更に複雑性を体現したものになります。
コンセプトの範疇の解説
少し分類をしてみましょう。
- 建築デザインの○○においては、○○である の形になります。
- 建築デザインの概念:問題は目的性を持ち、コンセプトになり得る。
- 建築デザインの演習:プロセスは独立して存在でき、専門性を体現出来る。
- 建築デザインの実践:プロセスは独立して存在しないうえ、問題は必須になる。
- 建築デザインの実践:原型は設計のコンセプトとして公表されないことがある。
といった関係性があります。
コンセプトを、問題、原型、プログラムの三つに切り分け、それぞれで構造が合理的で、三つの要素間でのロジックが通るかどうかで整合性を確かめることができます。
コンセプトを探求する時に感性は必要か?
コンセプトの多くは理性的に定義することができますが、理性的なアイデアは探求することができ、感性的なアイデアの場合、探求することはできないという特徴があります。
しかし、感性は環境、日常の気づきや様々な経験に基づいています。感性を磨くには特定の物事について小さく分解し、多くの観点で分析することで身につくでしょう。
コンセプトの住み分け
コンセプトを掲げる時、主に建築家同士の交流に焦点を置かれますが、一般の方・第三者に対しては、それほど重要度が高くありません。
- コンセプトを掲げる際、問題は利益関係者に大きく影響します。
- コンセプトの原型は第三者に共感される必要はあまりありません。
- コンセプトの手法は建築家間の交流の内容になります。
クライアントや第三者に説明するときは異なるプレゼンを用意する必要があります。
デザインとリサーチ(学術論文)における関係性
建築デザインにおけるコンセプトは三つの要素に振り分けることができますが、論文の形式に比べる際、
- デザイン/リサーチ
- 問題 / 問題点のリサーチ
- 原型 / 文献のレビュー
- 手法 / メソッド
といった関係になります。
コンセプトを学術的な観点で分析出来る部分が建築デザイン分野での大きな特徴になります。
コンセプトの具体的な解説
デザインスタジオNendoの作品「階段の家」のDezeen記事を例に、コンセプトを三つの要素に切り分けて考えてみていきます。
*英記事を日訳しました。
階段の家 by Nendo
東京にあるこの家は、デザインスタジオNendoが同一家族3世代のために作った間取りの中に、巨大な偽の階段が家の中までふてぶてしく鎮座しています。
「階段の家」は、ネオンに照らされた建物、賑やかな通り、活気あるナイトライフシーンで知られる東京都新宿区の閑静な住宅街に位置しています。
(中略、後に全文掲載)
階段のステップは、一日中猫たちの快適な日向ぼっこラウンジスポットとしての役割も果たしています。
ー英原文:Steel and concrete steps cut through facade of Stairway House by Nendo
Natasha Levy | 3 April 2020(dezeen掲載)
これを先ほどの問題、原型、プログラムで文章を色分けしてみます。
●問題 ●原型 ●手法
東京にあるこの家は、デザインスタジオNendoが家族3世代のために作った間取りの中に、巨大な偽の階段が家の中までふてぶてしく鎮座しています。
「階段の家」は、ネオンに照らされた建物、賑やかな通り、活気あるナイトライフシーンで知られる東京都新宿区の閑静な住宅街に位置しています。
3階建てのこの家は、同じ家族が3世代で暮らすことができるように設計されています。周りのマンションの影に隠れてしまっていた木造の小規模な物件に取って代わって設計されました。
敷地の北側の明るい場所に、前の入居者が植えた柿の実の木の保存に気を配りながら新居は建てられ、1階は年配のご夫婦とペットの猫8匹、2階は年少のご夫婦とその子供のための家となっています。
二世帯がそれぞれの住居で孤立してしまうのを防ぐために、スタジオは家のすべての階(アイレベル)が一体となった大階段のような構造を建てることにしました。
階段は裏庭からガラス張りの背面ファサードを通り、最上階まで続いています。
階段の家」の内部は鉄骨、屋外の階段はコンクリートで構成されています。
「階段は室内と庭を繋ぐだけでなく、世帯と世帯を繋ぐだけでなく、さらに外に出て周囲と街を繋ぐことを目指しています」とNendoは説明します。
猫たちのための小さなプレイルームやバスルームの設備は構造物の中に隠されており、実際に階段を利用して高層階に行くことができます。
砂利を敷き詰めた庭の階段には、葉っぱのような鉢植えが点在しています。温室を思い起こさせるためにNendoはこのようにデザインしました。
階段のステップは、一日中猫たちの快適な日向ぼっこラウンジスポットとしての役割も果たしています。
問題を集めてみますと、
- 家族三世代
- マンションの影に隠れた元の木造物件
- 前入居者の植えた柿の樹
- 猫8匹
- 二世帯が孤立しないように
といった部分を解決するためにNendoは平面計画、敷地計画、空間構成を行ったことがわかります。
手法を集めてみますと、
- 敷地の北側に建設する
- 家の全ての階をスキップフロアにする
- 階段は裏庭からガラス張りのファーサードを経由し、屋上まで続く
- 猫たちのための小さな部屋、さらにバスルームなどの設備は構造の中にある
といった建築の専門的な情報、具体的な施策が明らかになります。
原型を集めてみますと、
- 一体になった階段(大階段、スキップフロア、大きい規模)
- 階段は室内と庭を繋ぎ、世帯間を繋ぎ、外と出て都市と繋がる(架橋、都市規模)
- 温室を思い起こす(温室、小さい規模)
- 一日中猫たちの快適な日向ぼっこラウンジスポット(温室+ラウンジ、小さい規模)
のようにNendoが意図的に取り入れた原型に沿ってデザインがなされたことがわかります。
Nendo手掛けるこの「階段の家」はコンセプトの段階で、複雑で異なる性質の建築機能を敷地計画と併せて十分に考慮されたことがわかります。
採用した原型が問題と手法に抵触しないように、規模に応じて手法を使い分けていることも賢明だと思います。
コンセプトの望ましい未来
自身が提唱したコンセプトは建築のプロジェクト内に体現されるだけではなく、他の建築家や違った分野で研究されることもあり、良いコンセプトはのちに多くの人の原型として利用されることが望ましいです。
建築家が新たに創造するコンセプトが原型として語られるとき、その建築界に大きな影響を与えたことが証明されることでしょう。
コンセプトを模索するための道具
コンセプトは小さなアイデアを集めて思いつくことがあります。アイデアをマインドマップ、KJ法など様々な思考ツールによって導くことができます。
過去の記事にまとめてみました。