建築デザインに使用するノートPCについて、さらに詳しい解説をします。
- 建築用ノートPCの選び方について
建築用ノートPCの選び方について
ノートPC v.s. デスクトップPC
建築デザインの性質上、2DCADによる製図、3Dモデリングやレンダリング、PhotoshopやIllustrator、動画編集、パラメトリックデザイン、プログラミングなど多岐にわたる用途でPCの恩恵を大きく受けます。
ノートPCはデスクトップPCに比べると性能が控えめで2~3割ほど高価になるため、経済的な制限またはPC性能の実情をよく知らないことから、使用強度に合わない貧弱なPCを購入してしまいがちです。
しかしノートPCは携帯ができる分だけデスクトップPCに比べ、
- 外出先でのプレゼンや会議時での使用
- フィールドワーク先で資料収集
- 古建築測量、ドローン撮影による写真をPhotoScanに取り込む
- 設計以外の連絡業務を外出先でこなす
- レーザー加工、3Dプリントなど模型製作の補助に利用する
- 置く場所を取らないのでどこでも作業が可能
- 停電時でも作業が中断されない
など多くの役割・利点を持てるため、用途に合った強力なノートPCを購入することが結果的に大幅な時間短縮につながります。
PC起動時間が長くても快適に使えるゲーミングノートPCが建築用ソフトをフル活用できる選択肢のひとつです。
一方でデスクトップPCでは、
など上記のように作業そのものの強度が高く、拘束時間が長い場合、性能面やカスタマイズ面で上回りやすいデスクトップPCに分があると言えます。
推奨例-薄型ゲーミングPC
前回の記事内では、薄型のゲーミングPCを推奨しました。
スペックの具体例に、
建築デザインの時短術!ノートパソコンの選び方 - かーきアサヒの建築手記
- 薄型ゲーミングPC(Alienware、MSI)
- Windows OS(Windows 10)
- CPU Core i7-8750H
- メモリ 16GB
- GPU GTX1060x(ゲーム向け)
- 画面サイズ 15.6インチ
- 筐体 大型、排熱デザインあり
- 解像度 1920x1080
- ストレージ SSD256~512GB
- バッテリー駆動時間 3~5時間
- 最大処理速度時の騒音 大
- 消費電力 大
- PC重量 約4.5kg(充電器含む)
- 値段 20万円前後
- 使用年数 4~5年
上記のものを挙げています。
このスペックの条件を兼ね備えたPCは、建築デザインに使用する主要ソフトの性能を存分に発揮でき、デスクトップのPCとほぼ同じ使用感で資料作成、3Dモデリング、レンダリングができることが特徴です。
選び方の基準
CPU、GPU、メモリ、ストレージの条件を最低限満たすPCの中からさらにPC重量、排熱条件、画面の大きさ、PCモニターの仕様を見ていきます。
- CPU :Core i7 6700HQ以上
- GPU :GTX950以上の性能
- メモリ :16GB 以上(必須)
- ストレージ :SSDは256GB以上
- PC重量 :本体 1.7kg~3.0kg
- 画面サイズ :15.6~17.3インチ
- PCモニター :IPSパネル
- 価格帯 :13万円~25万円
上記の条件を満たすものがよろしいと思います。
評価が高いPCを選ぶ
販売サイトでユーザーの支持が多いゲーミングノートPCを選ぶ方法があります。
- GALLERIA GCR1660TGF-QC ドスパラ(2020年4月時点)
こちらのPCは、
- OS :Windows10 Home 64
- CPU :Core i7-9750H
- GPU :GeForce GTX 1660 Ti
- メモリ :16GB DDR4 SO-DIMM
- ストレージ :512GB NVMe SSD
- PC総重量 :2.69kg(本体1.87kg)
- 画面サイズ :15.6インチ
- PCモニター :液晶パネル非公称
- キーボード :光学式キーボード
- バッテリー :10時間、高負荷時は3~5時間
- 価格 :145,380円(税別)159,918円(税込)
-
出入力端子には、
などが揃います。注意すべきは、
- カスタマイズ不可
- テンキー非搭載
- 光学ドライブ非搭載
- キーボード配置に難有り
- 充電機器が重い
- 高負荷時ファン音がかなり気になる
- 内蔵スピーカーの音質に難有り
といった点でしょう。
CPU、GPUの性能の高さに関わらず、ゲーミングPCでは珍しい1.87kgのPC重量、比較的長いバッテリー駆動時間、そして性能と価格のバランスの良さが多くのユーザーから評価されている点になります。ゲーミングノートPCにしては落ち着いた外観が実用的でユーザーから喜ばれています。
一方でカスタマイズ不可なためストレージの容量に少し不安が残り、独特のキーボード配置、スピーカー音質に関して不満を述べる声が目立ちました。
建築デザインのような多目的用途で十分に活用できるモデルと言えるでしょう。
CPU解説
CPUの性能がノートPCの性質を大きく左右する要素になります。CPUを自動車のエンジンに例えるとすると、性能の良いCPUは馬力・速度がありますが、その分電力消費も大きい傾向があります。
建築デザインで3Dモデリング・レンダリングをする場合ハイエンド(最上位群)あるいはハイクラス(上位群)のCPUから選ぶことをおすすめします。
CPUにはメーカー型番があり、コア数、スレッド数、クロック数、消費電力などによって総合的な性能が決まります。
コア数・スレッド数
コア数はCPUの数、スレッド数は1つあたりのCPUがこなせる処理の数を示しています。コア数とスレッド数を乗算した合計数がCPUの性能を簡単に判断する基準になります。
例として、4コア 4スレッドのものと4コア 8スレッドのものを比較すると、後者の方が大量のソフトを同時に処理できる能力を持っています。
クロック数・消費電力
クロックス数は周波数とも呼ばれ、周波数の高いCPUはその分処理の変化に柔軟に対応でき、消費電力も大きくなります。周波数が低い場合、CPUの基本速度は落ちますが、電力消費を抑えられるといった具合です。
例えば Core i7 1065G7 のCPUはクロック数は 1.3GHz-3.9GHz ですが、定格クロック数(基本性能時)は 1.3GHz になり消費電力を抑え、高負荷の処理には 3.9GHz に切り替えて高いパフォーマンスを発揮します。
消費電力はノートPCでは15W~60Wのものがあり、バッテリー駆動時間を大きく左右します。同じバッテリーの規格でも、消費電力が15Wのものでは5~10時間の駆動時間、45Wのものでは3~5時間の駆動時間という差があります。
CPUグレード/シリーズ
主にIntelのCPUについて解説します。ノートPCに使用されるCPUで最もシェアが多いのはIntelの製品になり、次にAMDの製品があります。
IntelのCPUを例に挙げるとCPUにはグレードがあり、性能順で、
- ブランド:用途・性能の解説になります。
- Xeon-E :ハイエンド・非常に高い
- Core i9 :クリエイター・非常に高い
- Core i7 :ゲーミングPC・高い
- Core i5 :ミドルユーザー・高い
- Core i3 :ミドルユーザー・一般的
- Pentium :低価格帯PC・少し低い
- Celeron :格安PC・低い
- Atom :タブレット・かなり低い
といった位置づけがあります。
建築関係のPCに必要とされるグレードはCore i5~Core i7になります。特にPentium、Celeron、Atomは性能がかなり低くなるので避ける必要があります。
さらにシリーズ型番で細分化され、性能順で、
- シリーズ:用途・性能の解説になります。
- HK :動画編集・高性能、OC可*1
- H :動画編集・高性能、OC不可
- HQ:Adobe編集・新世代では少ない
- G :Adobe編集・内臓GPUを搭載
- U :Office編集・一般的なノートPC
- Y :Web閲覧・消費電力を抑えた型
- m :Web閲覧・Yとほぼ同じ性能
- N :Web閲覧・組み込み機器に使用
- J :Web閲覧・Nとほぼ同じ性能
上記のようになります。
建築用途のPCではH、G、Uのシリーズを選び、Y、m、N、Jシリーズを絶対に避けましょう。軽量系PC、薄型PCをうたう製品のCPUはYシリーズであることが多いので事前に詳しく調べてみたりメーカーに問い合わせると良いでしょう。
Hシリーズ
Hシリーズの性能は非常に高く申し分ありませんが、バッテリー駆動時間が短く、PC重量は重い傾向があります。重量が気になる方は事前にチェックしましょう。
Gシリーズ
Gシリーズは高い性能を持つGPUを内蔵しているのが大きな特徴です。
独立GPUと張り合える性能は評価できる点でしょう。
CPUとGPUを統合した形になるので、PC重量を抑えられます。依然バッテリー駆動時間は短いですが、性能と軽さを両立させたい場合はGシリーズのPCを探してみるのがおすすめです。
Uシリーズ
Uシリーズは消費電力を抑えたバランス型です。
Adobeソフトを十分に使用でき、モデリングをしない場合、バッテリー駆動時間を5~6時間まで確保できる点が魅力的です。
一方で高負荷のかかる3Dモデリング、レンダリングといった用途ではバッテリー駆動時間は2~3時間まで極端に短縮されるので操作中は充電を欠かさないようにする必要があります。
建築デザイン界隈で話題に挙がるSuface Laptopなども高価ではありますが、GシリーズUシリーズの製品もこちらに含まれます。
Yシリーズ
YシリーズはコンパクトにCPU、GPUを内蔵させたものになります。
軽量・超薄型のPCが多く、発熱が少ない、消費電力が抑えられるためバッテリー駆動時間が長い、そして基本価格が全体的に安いことが特徴ですが、建築ソフトに必要な作業をこなすにはかなり能力不足が目立ちます。
業界のデザインの主体が3Dモデリング、レンダリングに移行していっているため、ノートPCでデザインをしない、または連絡業務をこなす場合のみ候補に挙がるシリーズとなっています。
推奨CPUの例
性能の出来が良いとされるCPUは、
などになります。
基本クロック数が低く、且つ高負荷操作に耐えてくれるCPUの例です。消費電力が少なくバッテリー駆動時間が長く持続してくれます。
このCPUを搭載しているPCはSurface Pro 7など軽量型且つ高性能でPCを使用したい方に向けたラインナップに含まれます。
他にもデスクトップPCと引けを取らない性能を持つCPUは、
などがあります。
安定したパワーを出せるゲーミングPCではよく見かけるCPUで、バッテリー駆動時間は3~5時間程度になりますが、レンダリング、動画編集などの作業もこなせるようになります。
このCPU性能以上のものを搭載するPCでは排熱機能がかなり重要になるので、排熱デザインが組み込まれているPCを優先して選びましょう。
CPUリスト(ノートPC版)
Intel のノートPC向けのCPUのリストになります。推奨のCore i7 6700以上のものを高性能順に挙げてみました。
- CPU名称(コア数/スレッド数/クロック数/消費電力)となります。
- Core i9 9980HK (8コア/16スレッド/2.4GHz-5.0GHz/45W)
- Core i9 9880H (8コア/16スレッド/2.3GHz-4.8GHz/45W)
- Core i9 8950HK (6コア/12スレッド/2.9GHz-4.8GHz/45W)
- Core i7 9850H (6コア/12スレッド/2.6GHz-4.6GHz/45W)
- Core i7 9750H (6コア/12スレッド/2.6GHz-4.5GHz/45W)
- Core i7 8850H (6コア/12スレッド/2.6GHz-4.3GHz/45W)
- Core i7 8750H (6コア/12スレッド/2.2GHz-4.1GHz/45W)
- Core i7 10710U (6コア/12スレッド/1.1GHz-4.7GHz/15W)
- Core i7 1065G7 (4コア/8スレッド/1.3GHz-3.9GHz/15W)
- Core i5 9300H (4コア/8スレッド/2.4GHz-4.1GHz/45W)
- Core i5 1035G7 (4コア/8スレッド/1.2GHz-3.7GHz/15W)
- Core i7 10510U (4コア/8スレッド/1.8GHz-4.9GHz/15W)
- Core i5 8300H (4コア/8スレッド/2.3GHz-4.0GHz/45W)
- Core i7 8650U (4コア/8スレッド/1.9GHz-4.2GHz/15W)
- Core i5 1035G4 (4コア/8スレッド/1.1GHz-3.7GHz/15W)
- Core i7 7700HQ (4コア/8スレッド/2.8GHz-3.8GHz/45W)
- Core i7 8565U (4コア/8スレッド/1.8GHz-4.6GHz/15W)
- Core i5 1035G1 (4コア/8スレッド/1.0GHz-3.6GHz/15W)
- Core i7 8705G (4コア/8スレッド/3.1GHz-4.1GHz/65W)
- Core i5 10210U (4コア/8スレッド/1.6GHz-4.2GHz/15W)
- Core i7 8550U (4コア/8スレッド/1.8GHz-4.0GHz/15W)
- Core i5 8350U (4コア/8スレッド/1.7GHz-3.6GHz/15W)
- Core i7 6700HQ (4コア/8スレッド/2.6GHz-3.5GHz/45W)
- NotebookCheck.netより参考にしています。
なおCore i7 6700HQ性能以上のものを挙げましたが、比較的高性能なCPUのリストです。
ここからさらにGPU、筐体、冷却装置の状況によって、CPUの最終的なパフォーマンスが決まります。
GPU解説
GPUはCPUで処理した画像を画面に反映させるための部品です。
GPUの性能が高いと画面上の操作を高速で反映でき、高負荷の3Dモデリング、高負荷のAdobeソフトでの操作遅延が減り、GPUによって行われるレンダリングの速度が格段に上昇します。逆にGPUの性能が低いと操作遅延が増え、快適な操作は望めません。
CPUと同じく、GPUの性能が高いほど消費電力、発熱が増える傾向があります。バッテリー駆動時間が短くなるので留意しておきましょう。
NVIDIAとAMDのGPU
現在シェアが多いGPUはNVIDIAによるGeForceシリーズ、AMDによるRadeonシリーズがあります。AMDのGPUは映像性能に特化されたものが多いのに対して、NVIDIAのものはゲーム・3D描画などの性能のバランスが取れているため、NVIDIA GeForceシリーズのGPUを主に建築デザインで使用します。
内蔵GPUと独立GPU
独立GPUは内蔵GPUに比べ、建築用ソフトでパフォーマンスが大きく優れます。
内蔵GPUはもとは独立GPUの代わりとしてではなく、ノートPCの価格を下げたり発熱などの不備を抑えて性能を底上げするために考案されたものです。
建築デザインでは高負荷処理、多目的使用が一般的なので、内蔵GPUではなく、独立GPUの形式であるPCを選ぶ必要があります。
GPUグレード/シリーズ
のように分類分けがされております。また、
- GeForce GTX 980M
- GeForce GTX 1660Ti
- GeForce GTX 1060 Max-Q
のように接尾語の -M 、 -Ti 、-Max-Q が付く製品があり、
上記の意味合いがあります。
GPUリスト(ノートPC版)
NVIDIAの提供するGeForceシリーズの中で、GTX950Mの性能以上を持つGPUは、
- GPUの名称・消費電力となります。
- GeForce RTX 2080 (150W)
- GeForce GTX 1080 (180W)
- GeForce RTX 2070 (115W)
- GeForce GTX 1080 Max-Q (110W)
- GeForce GTX 2080 Max-Q (80W-90W)
- GeForce GTX 2070 Max-Q (80W-90W)
- GeForce GTX 1070 (150W)
- GeForce RTX 2060 (80-90W)
- GeForce GTX 1660 Ti (80W)
- GeForce GTX 1070 Max-Q (80W-90W)
- GeForce RTX 2060 Max-Q (65W)
- GeForce GTX 1660 Ti Max-Q(60W)
- GeForce GTX 1060 (120W)
- GeForce GTX 980 (150W)
- GeForce GTX 1060 Max-Q (70W)
- GeForce GTX 1650 (50W)
- GeForce GTX 980M (125W)
- GeForce GTX 1650 Max-Q (35W)
- GeForce GTX 1050 Ti (70W)
- GeForce GTX 970M (95W)
- GeForce GTX 1050 Max-Q (40W)
- GeForce GTX 880M (100W)
- GeForce GTX 965M (- W)
- GeForce GTX 780M (100W)
- GeForce GTX 870M (- W)
- GeForce MX350 (25W)
- GeForce GTX 860M (- W)
- GeForce GTX 960M (75W)
- GeForce MX330 (25W)
- GeForce GTX 1050 (50W)
- GeForce GTX 770M (75W)
- GeForce MX250 (25W)
- GeForce GTX 950M (75W)
- NotebookCheck.netより参考にしています。
上記のようになります。デスクトップPCに比べノートPCで使用されるGPUは性能が10~20%ほど低いため、注意してください。
特筆すべき内容で言うと、D5 RenderのようなレンダリングソフトではGeForce GTX1060以上が作動条件のため、いずれ利用を考えている方は性能がGTX1060以上のGPUを検討すると良いでしょう。
使用率の高いGPU一覧
NVIDIAのGeForceシリーズの中でユーザーの使用率の多いGPUは、
- GeForce GTX 1050 Ti
- GeForce GTX 1060
- GeForce GTX 1070
のようなラインナップがあります。
性能や費用対効果の観点では、上記のGPUは優秀です。GPUを選ぶ際には作動環境に必要なスペックを確認すると良いでしょう。
D5 Render 用GPUへの追記
D5 Render ver.1.5 以降ではGTX1060では、レンダリング時に不具合が起こるようになりました。GTX1060ではなく、RTX2060が推奨作動GPUになり、さらにスペックの高いノートPCが要求されるようになりました。
ソフトごとに異なるGPU環境
Adobeソフトでは操作性を改善させるために独立GPUを選ぶ方が良いですが、PhotoshopやIllustratorでは最低限のGPU性能があれば十分に作動し、必要以上の性能があったとしてもソフト内で速度はあまり反映されなくなります。
ArchiCAD、SketchUp、Rhinocerosといった3Dモデリングソフト内でも一定以上の性能を満たすと高負荷の映像処理操作がない限りは差異が少なくなります。
他にもAutoCADなど2D描画向けにQuadroシリーズのGPUがありますが、全体を見た場合、3Dモデリング、レンダリングを同時にこなすことがある建築デザインではNVIDIAのGeForceシリーズを採用するのがバランスのとれた選択肢だと思います。
一方でMaya、Vray、Enscape、Lumion、Twinmotion、D5 Renderを筆頭としたレンダリングソフトではGPUの性能は非常に顕著に現れます。
レンダリング・動画制作を中心にノートPCで行う場合、記事内で紹介したGTX以外に、RTXと呼ばれる高性能GPUシリーズを搭載したPCも選択肢に入ってきます。
CPU、GPUに関する注意点
高性能GPUを搭載する場合、同じく高性能なCPUでないと性能を発揮できないことがあります。
他にも例として、Core i9-9000KのCPU、Geforce RTX 2080のGPUを搭載したPCは驚異的な性能と速度を発揮しますが、その分の電力消費量が多く通常使用でもバッテリー駆動時間が3~5時間に限られてしまい、据え置きでの利用がメインとなるでしょう。
同時に発熱も多いので、CPU、GPUの性能の良さ、外観、デザインのみに気を取られ、排熱が困難な超薄型PCを選ぶと、肝心な時に不具合が起きたり、一年後には大きく性能を落とすなんてこともあります。筐体と性能のバランスのとれたものを選びましょう。
そして性能の高いCPU、GPUはある一定の価格帯を超えると性能差が少なくなり、費用対効果の面でも割に合わなくなります。
予算に余裕があれば20万~30万円価格帯の高性能CPU、GPUのノートPCを購入できますが、高額なノートPCは基本性能よりもブランドの宣伝、デザインや外観、アタッチメント、メーカー保証に力を入れたものが多くなるので、実用にそぐわないものには十分注意しましょう。
メモリに関する注意点
最もオーソドックスなノートPCのメモリは通常8GBですが、
- 動画を作成する
- 同時にAPPを立ち上げる
- 仮想デスクトップ環境を使用する
- 高性能建築ソフトを使用する
上記の場合では、16GB以上のメモリを備えたものを選ぶ必要があります。
メモリはソフト起動の速度に大きく影響します。CADやベクトルデータをAdobe Illustrator、Photoshopで同時に起動する際、メモリが足りないとソフトが正常に作動できなくなります。
他にもMacbookなどのUnix、Linux OSにてWindows OSを起動するときにもある程度メモリ、ストレージを消費するので注意しましょう。
特筆すべき点で言うと、メモリは機種によっては後に増設することができます。購入前にメモリの規格を確認しましょう。
ストレージ
デュアルストレージと言って、SSDとHDDの両方を搭載しているものが理想的です。
SSDは高速出力が可能でHDDよりも性能が良いですがその分容量拡張の価格が高く、一方でHDDは速度はSSDに劣るものの、少ない価格で大容量を実現できます。
予算が許す限り、SSDが256GB、HDDが512GB以上あるものを探しましょう。
HDDが内蔵していないタイプのゲーミングPCでは、SSD500GBのみでHDDなどのストレージを拡張できないものがありますが、通常使用では十分な容量になるので全てのデータをPC内で管理する場合を除き、携帯できる外付けHDDをバックアップストレージとして購入するのもおすすめです。
他にもSSDが120GB、HDDが1TBあるものを利用する組み合わせもありますが、現状のゲーミングノートPC市場では、あまり見かけない構成となっています。
SSDにはPCIe NVMeの格式とSATA格式があり、SSDのPCIe NVMeのアクセス速度はSATAに比べ3~6倍速くなり、発熱量も増えます。参考なまでに見てみましょう。
画面サイズ
画面サイズはPC筐体の大きさに直接影響する要素になります。
13インチ以下
13インチ以下のサイズのノートPCはその画面の小ささゆえに建築ソフトの情報量の多いUIには適さず、解像度を上げても文字が潰れて見えるといったことがあります。この画面サイズよりも大きいサイズを検討しましょう。
13.3インチ
13.3インチサイズのPCは筐体サイズの制限により、性能を落として携帯性とバッテリー駆動時間を伸ばした型です。
A4ほどの大きさで女性に人気のあるサイズ感ですが、どうしても3Dモデリングには力不足を感じる構成が多くなります。
小型化して尚且つ高性能CPU、GPUを搭載したPCシリーズもありますが、排熱問題を抱えるほか非常に高額なモデルになるためあまり推奨はできません。
15.6インチ
15.6インチサイズのPCは最もオーソドックスな型になり、性能と携帯性の妥協点を攻めたデザインです。
画面サイズを維持しつつ、筐体サイズを変動させることで、コンパクト型のPCで打ち出したり、あえて排熱デザインを組み込み大型の筐体で打ち出すデザインなどがあります。
15.6インチサイズのPCは市販の大型リュックサックにちょうど入る程度の大きさなので、PC購入の際には必ず携帯方法について念頭をおきましょう。
17.3インチ
17.3インチサイズのPCになると消費電力が増え、持ち運びの勝手がかなり悪くなりますが、据え置きでの使用時には快適な操作性を誇るサイズになります。
携帯をしないあるいは自宅に据え置きする場合17.3インチ型は良い選択肢です。携帯をする場合は専用ケースの購入を考えましょう。
PC重量
充電機器、PC本体、マウスなどの周辺機器を含めた重量分を携帯することになります。
全て含めた機器の総重量が5.0kg以上だと気軽に持ち運べなくなりますので、PC本体は3.0kg以下に抑え、尚且つ性能を損なわない1.7kg以上のものを選ぶのが良いと思います。
1.7kgのPC重量は軽量PCとそれ以上を分ける基準にもなります。
さらに筐体を超薄型にすることで軽量化を図る製品がありますが、3DモデリングをするPCにはふさわしくないことを覚えておきましょう。
周辺機器・道具
PC本体と充電線以外に周辺機器・便利グッズなどの中から、
- 道具の名称(重量)になります。 ※参考までにご覧下さい。
- マウス・トラックボールマウス (250g)
- スマホのモバイルバッテリー (300g)
- USB (10g)
- 携帯HDD (150g)
- スマホ充電コード (50g)
- スケッチブック (500g)
- 筆記用具 (300g)
- ヘッドフォン・ヘッドセット (300g)
- Kindleなどのタブレット (130g)
- フィールドワークなど特殊使用の周辺機器
- Leicaなどの手持ち小型カメラ (800g)
- SDカードポート (10g)
- 拡張USBポート (50g)
- 拡張電源コンセント (100g)
- Webカメラ (200g)
- ポータブルブルーレイドライブ (300g)
- 拡張ファン・PCスタンド (150g)
- スマホスタンド (100g)
- HDMI出力アダプター (50g)
- Type-C USBアダプター (50g)
- 特殊な機器の使用を除く場合、周辺機器の総重量は1,740gとなります。
- 全て携帯した場合、周辺機器の総重量は3,550gとなります。
上記のように様々な道具を用途に応じて持ち合わせたりします。
極端な例ではありましたが、モデリングを中心に行う方々のリュック内の所持品はPC関連の周辺機器が多く、書籍や図面を携帯することは逆に少ない傾向にあります。図面や書籍はPDFデータに変換してデバイスで見ることが主流になってきています。
PC専用ケースに入れる場合、PC本体と充電器だけでほぼいっぱいになりますので、大型リュックサックに入れて携帯するのが良いと思います。
PCモニター
PC用のモニターに使われる液晶パネルで主流のものはIPS、VA、TNの三つに分けられます。
それぞれの液晶パネルは、
- IPS:視野角が広く、色彩再現度が高いため、画像編集に適す
- VA:コントラスト比が優れ、黒の発色が均一で、映画鑑賞に適す
- TN:視野角は狭く、画面の反映速度が速く、ゲーミングに適す
といった特徴があります。
視野角の広さ
視野角とは、モニターに向かって垂直の視野から角度をつけた場合の色差許容の程度を指します。
TNパネルのように視野角が狭いと、異なる視点で色彩を確認するときに誤差が出るため、視野角の広いIPSパネルが採用されます。
建築デザインでは特に複数人でモニター上の色彩を確認することが多くなるため、メーカーが明記している場合は IPSのモニターを選びましょう。
IPSモニターにはさらに分類があり、AH-IPS、AHVAがあります。
AH-IPS・AVHAパネル
Advanced High-Performance IPS、通称AH-IPSはより密度の高い解像度を実現しました。
特にApple製品のRetina DisplayはAH-IPSの代表例でしょう。
例えば、MacBook Proは16インチサイズの画面に3072×1920の解像度を収め、ノートPCではトップクラスの画面の美しさ、鮮やかな色彩を誇ります。
Adevanced Hyper-Viewing Angle、通称AHVAはIPSモニターの鮮明さを誇りつつ、TNモニターに劣らないほどの反応速度を実現しました。
ゲーミングモニターとして大変手応えのある仕上がりになっています。
メーカー
メーカーごとにCPU、GPUなどの性能は対して変わらないのに、有名企業のブランドではPCの価格が一般メーカーに比べて割高なものがあります。
例えばSONYやサムスンの打ち出すPCは性能が同じでも高額なブランド費用が加わるので価格が高くなることがしばしばあります。
ブランド、デザイン、外観にこだわるよりも、必要な性能だけを備えたものを選ぶのが賢い買い物と言えるでしょう。
推奨メーカーと調べ方
建築用に適しているゲーミングノートPCで推奨できるブランドは、
-
メーカー名称 :推奨PCシリーズになります。
- ドスパラ :GALLERIA GCR/CCR
- HP :OMEN by HP
- MSI :GPシリーズ
- ALIENWARE :ALIENWARE M17
- ASUS :ROG ZEPHYRUS M
- Razer :RAZER BLADEシリーズ
- G-Tune :G-Tune H5/P5
- FRONTIER :FRLN910
- パソコン工房 :LEVELシリーズ
などの通りになります。
上記のメーカーそしてPCシリーズは格安PCからハイエンドモデルPCまで、数多くのラインナップを揃えています。
BTO(Build To Order、受注発注)PCメーカーのサイトで、必要なGPU、CPUに対応しているPC機種を選び、構成変更ができるモデルでメモリ、ストレージやOfficeソフトの組み込みなどの条件を変更して比較するのが基本的なPCの調べ方になります。自身の用途にあったPCを見極めて、慎重に選ぶことをオススメします。
理想は使用レビューや周囲の方の評価を聞いてBTOメーカーのサイトで購入することですが、PCに詳しくない方はメーカーの直販店に行って店員に直接話を伺うのが良いでしょう。
使用にまつわるトラブル
メーカートラブル
PC使用でどうしても避けられないのが、故障、物損、水没などのトラブルです。
PCはかなりデリケートな機械なのです。
こればかりはどんなに高価な製品を使っていても起こりうることなので、購入時に保証期間を延長する有料オプションを選んだり、不具合時に全うな対応・サービスを受けられるように願うしかありません。
色んなメーカーの過去のクレーム内容を調べる限り、
- 初期不良に関するトラブル
- 格安PCに関するトラブル
- 基本価格が高すぎることに対しての中傷
- 修理期間が長期化
- 修理費用が膨大に膨れ上がる
など金銭や製品の質にまつわる問題が多い傾向にあります。
PCの正しい使用方法や万が一のための修理の対処法やメーカーサービスの違いについて事前に調べると、大きくリスクを減らせるかもしれません。
セキュリティ・盗難・紛失トラブル
高価なPCは盗難・紛失被害が後を断ちません。建築プロジェクトにおいて第三者に知的財産を含むデータが渡るのは絶対にあってはならないことです。
盗難被害に遭わぬように保管場所を事前に決めることや貴重品を簡単に公共の場に置かないなど、自身の安全管理の意識が必要です。
起動時OSのパスワードを設定するほか、プロジェクト毎にPDFにはパスワードを設定し、クラウドにデータのバックアップをする、盗難防止用グッズや離席の際にアラームデバイスを置くなどの対策をしっかり取りましょう。