効果的な表現方法を身に付けることは、建築学の初心者にとって非常に重要です。
今回は製図表現について簡単な解説をしていきます。
製図表現
パース図面
パースの解説
パースペクティブ(Persepective)通称パース図面は建築デザインで最も表現力のある図面になりますが、パース図面を制作するときに重点があり、例として、
- 色調
- 構図
- 雰囲気
- 線の精密さ
- レンダリング技術
上記ポイントがあります。
それぞれの要点を解説すると、
- 色調:プレゼンボードなどに使用する色彩の基調や文字・背景の色など
- 構図:プレゼンボードの構図構成、縦割り、横割りなど
- 雰囲気:デザインの風格に合わせた記述の方法や図面の表現方法など
- 線の精密さ:デザイン案の線の正確さ、図面の線の精密性など
- レンダリング技術:レンダリングを用いてリアルな空間再現をしているかなど
といった性質があります。
最終的な図面の効果に大きく影響するものの順番で並べると、
- 色調
- 雰囲気
- 構図・レイアウト
- 線の精密さ
- レンダリング技術
上記のようになります。
時間を多く費やすものを順番に並べると、
- レンダリング技術
- 線の精密さ
- 色調
- 構図・レイアウト
- 雰囲気
上記のような具合になります。
レンダリング技術に関する注意点
パース図面を制作するときに欠かせないのが3Dモデリングによるレンダリングだと思われがちですが、実際にレンダリングソフトなどでリアルに近い質感・効果を出すには、モデルの材料や細かな数値の調整、そして画像のエクスポートには大変な時間がかかります。
しかし、レンダリングによって表現できる建築パースは、ガラス・水面・反射素材・植物といった材質や太陽光などの光源による陰影を付与することが主な狙いであるため、+αでデザインのディテールを引き出せたとしても、デザインの方針や空間構成、計画を修繕できるわけではありません。
つまり、レンダリング技術は表現の補助として使用することがほとんどで、そうしたソフトや詳細に詳しくない場合または短期間で図面を制作する場合、完璧なレンダリングをすることに固執せず、Photoshopやillustratorなどで、デザイン案に合わせた色調・構図・雰囲気を演出する方が効率的なのです。
アイソメトリック図・俯瞰図
視野角が0°に達する場合、パースの変形は最も少ないアイソメトリック図面(Parallel View)になります。
他にも天空から建築と敷地の環境を俯瞰するように映す表現方法があり、空港や高層ビル、集合住宅設計などの大規模な建築デザイン案では、俯瞰図(Aerial View)を採用することがあります。
アイソメトリック図と俯瞰図の製図ポイントとして、
- 線密度:画面を構成する線型の密度、情報量の多さ
- 線型:製図に使用される線の規格
- ディテール:表記の仕方や材質の区別など
- デザインの考えを表現する:突出した部分をわかりやすく叙述する
- 雰囲気:図面の色調や構成を含めたデザイン案の雰囲気
などがあります。
重要度の高い順番で並び替えると、
- 線密度
- ディテール
- デザインの考えを表現する
- 線型
- 雰囲気
上記のような関係性があります。
時間がかかるものから順番に並べると、
- ディテール
- 線密度
- 線型
- 雰囲気
- デザインの考えを表現する
上記のような関係性があります。
上述の通り、アイソメトリック図や俯瞰図では高い線密度と詳細なディテール、線型の設定/分類によって、デザインの情報量を増やしていきます。線密度も3Dモデルそのものに依存するので、莫大な時間をかけて立体モデルを作りこむ必要があります。
限られた時間の中でアイソメトリック図を制作する際に事前にこの図面の必要性を判断し、不必要な場合は省略しても構いません。
アイソメトリック図の解説
アイソメトリック図面の表記法でよく使われるものはAxonometric、Isometricの二種類が有り、それぞれ図面の比率と角度が異なり、
- Axonometric:平面の直角内角を90°で表記し、奥行を含む図面の縮尺が正確
- Isometric:平面の直角内角を120°で表記し、縮尺をコンパクトに表記できる
といった特徴があります。
IsometricはSketchUpやRhinoceros上で等軸表示を設定した場合の初期表記になりますが、120°に手前の直角内角を変形させるため、平面が対角線に沿って圧縮され、建築的な表現に厳密には適さないという注意点があります。
Axonometricは小規模の建築デザインなどで多用され、空間構成を正確な尺度を使用するため、バウハウスやペンシルベニア大学といった伝統的な学術機構では主流の表記法です。
Axonometricに調整する場合、3Dモデリングソフト、SketchUpやRhinocerosなどで
上記の手順を踏むのが良いでしょう。
しかし、Axonometric図面は縦長の構図に引き伸ばされるので、都市デザインの俯瞰図のような規模の大きいものでは、図面のサイズに合わせてコンパクトに表記できるIsometric法に則って製図することが多くなります。
平面図・立面図・断面図表現
平面・立面・断面図は建築空間を正確に描写するための図面です。
この製図で挙げられるポイントは、
- 規範性
- 線型
- デザインの考えを表現する
- ディテール
- 雰囲気
上記の通りになります。
そして重要度の高い順番で並び替えると、
- 規範性
- デザインの考えを表現する
- 線型
- ディテール
- 雰囲気
上記のようになります。
時間のかかる順番で並べると、
- ディテール
- 線型
- 規範性
- 雰囲気
- デザインの考えを表現する
上記のような関係性があります。
プレゼンボードのレイアウトの際に各図面には
- 平面図が最も大きく、建築の入口、機能や縮尺など表記内容も多い
- 立面図は次に大きく、陰影を反映させる必要がある
- 断面図は立面図と同じ大きさで、構造などの詳細を表記する
といった特徴があります。
表記の内容が非常に複雑で情報量も多いため、よほど作りこむ必要がなければ、図面にはモノクロ+線型の形式が使われます。
規範性に関する注意点
建築製図、特に平面図は決められた規格・規範に基づきます。学生や初心者が短期間で規範性を図面に完璧に体現するのは困難ですが、それほどに問題は規範性に集中しやすく、仮に図面の規範性が一定のレベルを満たすと、図面そのものが設計計画の根幹を表現できるようになります。
例えば建築学科で取り扱うこともある劇場やホテルなどのデザインでは、大規模な建築空間内で厳しい制限や空間用途などの詳細をひと目で分かるように、
- 建築空間の入口
- 方位
- 縮尺・比率
- 外部空間の道路
- 階段などの交通機能
- 避難経路
- 空間用途・機能の表記
- 構造形式
などの要素を明記しなくてはなりません。
空間計画、設計計画の善し悪しは規格に基づいた図面では一目瞭然であり、平面・立面・断面など図面はデザインの質を素早く判断するための建築家の言語ともいえます。
線型
規範性を満たした上で、線型(Line type)は図面表現で非常に重要な要素です。
例として、平面図などの図面に登場する線型では、
- 線の種類:画素数となります。
- 壁面などの断面線:4px
- 可視線:2px
- 家具/ディテール線:1px
- 投影線/空間限定:点線
- 軸線:長辺と短辺を交えた点線
上記のような区別があり線型を用途によって使い分けることで、図面の規範性をさらに高めることができます。線型は基本、画素数・線の太さが二倍の関係で変動し、線型の種類は最低3種類、理想は5種類ほど分類して使い分けましょう。
線型を調整することも製図において非常に時間のかかる部分になりますので、デザインの段階でしっかりとレイヤー分け、分類をすることで効率的に制作することができます。
線型ワークフロー
製図においてよく使われる方式として、
にて線型・レイヤー分けを含めた全ての図面をソフト内で描画し、
- LayOut(SketchUp)
- dwg(SketchUp/Rhinoceros/AutoCAD)
などにエクスポートし、
- AI(Adobe illustrator)
- PS(Adobe photoshop)
上でpng/jpgファイルとして線型や表記などを調整して完成させます。
線型をモデリングソフトなどで区分してから、Adobeソフト内でプレゼンボード用に再編集することで、表記や文字が潰れたり、線型が過度に細くなることを防ぐことができます。線型が全く同じだと図面が平べったく見えてしまうので、図面の効果も大きく左右されるので、しっかりと時間をかけたい部分です。
RhinocerosやAutoCADではAdobe Illstratorなどのベクトル編集をしなくてもソフト内で線型を編集できるため、慣れてくると3Dモデリングソフト内で直接手直しできるようになり、大きく時間を短縮することができます。
しかし、実際のプレゼンボードの記載した際の見え方や精密性にこだわるのであれば、Adobe Illstratorで修正できるファイルにエクスポートするのが善策でしょう。
雰囲気・デザインの考えを表現
別荘や博物館といった建築デザインでは、周囲の環境や光源、風向きなどの関係を平面図や立面図などに反映できるようにプレゼンボード内で図面を集中して配置することがあります。
平面図での壁面の設置が視線や景観の方向を表し、隣接して配置した立面・断面図で環境や地形の起伏を表現することでより一層没入感のある構成にすることができます。
空間の詩的な叙述を演出したい場合、最初にレイアウトについてラフスケッチなどで図面の配置や色調、使用する素材を簡単に決めて置くとスムーズに作業を進めることができるでしょう。
分析図
ダイアグラム図(Diagram)通称分析図はデザイン案で、
などをわかりやすく表現するために使われます。
形式ロジック
形式のロジックはデザイン案に使用する原型を示します。形式のロジックの着想点や固有空間の特徴を事前に把握することで、形式の方向性について説明することができます。
形式変遷(Evolution/Iteration)は、建築の形態がどのようにして最終的な結果を得たのか、その順序や変遷を細かく解説するための分析内容です。
建築界ではBIG設計事務所やSASAKI設計事務所の分析図は単純明快で、形態操作に対しての造詣が深いので、人気が高く多くの事務所が参考にしています。
形式変遷の分析図内でさらに図面に対して、
- 環境ーマスー陰影を追加
- 主体ー輪郭を太くする
- 手法ー色調で強調
- コンセプトー色調で強調
- 結果ーディテールを作り込み、主体を際立たせる
ことで、分析図の空間関係をさらに明確にすることができます。
類型学・タイポロジーの分析
類型学(Typology)の方法を用いて、様々な建築のケーススタディを列挙し、空間の関係性を紐解くことで新たなデザイン案を得るやり方があります。
前述の形態操作のロジックとは異なり、学術的な要素が含まれるため、文献の収集や表記法も規格に沿うように分析が展開されます。
ヒエラルキー・レイヤー
ヒエラルキー・レイヤーとは、建築空間を異なる基準と階層に分けて分析する考え方です。
分解図(Exploded view)のように、
などを垂直方法に展開することで、さらに構成要素を独立させて表現させることができます。
デザイン案を分解図として表現する際、前述の図面と同じく、
- 線型
- デザインの考えを表現する
- ディテール
- 雰囲気
- 色調
などの要素を踏まえて体系ごとに正しい表記法での製図を意識しましょう。
機能・属性
SASAKI設計事務所の分析図やOMA設計事務所の分析図のように、建築の機能や属性を抽象的な表現方法で色分けしたり、文字を大きく大胆に図面に記載して視覚的に訴えたり、デザインの思考プロセスを明確に伝えることができます。
このような分析図では、建築表記の正確性よりも図面の色調や線密度、文字の密度によって引き立つ効果を重視しているため、全体の雰囲気と線型に気をつけて表現するとさらに効果的です。
レイアウト
プレゼンボードによく使われる規格の
- A1サイズ(841mm×594mm)
縦型、横型以外にも、
- A0サイズ(1188mm×841mm)
- A1サイズ+(841mm×Nmm)
- A3サイズ(420mm×297mm)
のように大型サイズのレイアウト版に設定したり、あえて小型のA3サイズを大量に並べて視覚的にダイナミックに演出するやり方があります。
特にA0サイズの図面を採用する場合、画面を分割することなく大きく載せることが可能なため、建築コンペのようにボードの規格が限定されていない時は大型の版面でレイアウトをすると非常に画面映えします。
A1サイズ+のように横型、縦型に図面を連続させるやり方で、分割されていないシームレスのレイアウトを用いて巻軸のような古風な作品を演出するやり方も学生の間では人気です。
レイアウトでの注意点
建築図面は言葉のとおり、建築の図が主体でなくてはなりません。
規模の小さいデザイン案では研究模型を羅列して表現したり、規模の大きいデザインでは俯瞰図やパース図が画面の中を占める割合を増やすことで、デザイン案の印象を素早く把握してもらうことができるため、原則として、
- 効果図面は大きく
- 分析図は小さく量で勝負
- 文字や内容の説明は最小限
上記のルールに沿ってレイアウトをすることを推奨します。
ファイルの保存
プレゼンボードに必要な図面を短期間で完成させるには、
- 規則正しい生活
- 図面の量を確保してから質を上げる
- デザインの難易度を下げる
- 製図を楽しむ
ことを心がけ、何よりも製図ファイルをしっかり保存するようにしましょう。
最も見受けられる機材のトラブルは、重要なファイルのバックアップを取らなかったために、別のファイルを誤って上書き保存をしてしまったり、元のファイルが見つからなかったりすることに起因しています。
補足
プレゼンボードについてのポイントをまとめてみました。
データをしっかりと記録・保存するための記事です。