かーきアサヒの建築手記

建築デザインについての時短術や現留学先での生活の違いを面白くまとめていきます

建築デザイン時短術!モデリングの発想と手段 - 無限階段の実践

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建築デザインにおいて特定の形態の3Dモデリングの手順についての解説をしていきます。

 

 

モデリングの発想と手段

原則上、どんな3Dの造形物も2Dの図面に表現することができます。しかし、2D⇔3Dを自由に操作するためには3Dモデリングの性質をよく理解しなくてはなりません。

 

今回は無限階段の作成を目標にモデリングの手順を見ていきましょう。

モデリングロジック:PolyとNurbsとSurfaceの違い

現在のモデリングの主流はSurfaceです。ほぼ全てのソフトがSurfaceの成形ロジックを使用しています。

 

昔、3Dモデリングと言えばAlias社のMAYAが市場を席巻していて、主要モデリングロジックはPoly、Nurbsの二つでしたが、Alias社がAutodesk社に買収された後に、モデリングロジックを統一するために3dsMaxに操作性を寄せたSurfaceというロジックが市場の主流の立場を占めるようになりました。

 

Polyは三角形を最小単位とした多辺形のモデリングが特徴で、Nurbsは曲面のモデリングで相対的に滑らかな曲面を成形できますが、UV属性を持っていません。Surfaceは曲面モデリングを多辺形物体に変更できるため、柔軟なモデリングロジックになりました。

 

その一方で建築のモデリングに関して言うと、建築物は規格化された部材によって作られるため曲面のモデリングをしても、最終的には多辺形物体への変換をする必要があります。

 

特にNurbsやSurfaceによっていきなり曲面を多用してしまうと、メッシュ面に変更する際に規格外の多辺形が膨大に増えてしまったり、多額の材料費がかかってしまったり、部材の替えが効かないため施工するときに大きな障害になることがあります。

 

そのため、はじめから一貫してムダの少ない*1モデリングを心がける必要があり、技術と費用の面でも、結果的にPolyモデリングを使用することが多くなります。

スケッチから発想を膨らます

モデリングの方式

建築では工業CADと同じく正視点、俯瞰視点、左視点の三つの視点による2D図面を組み合わせて立体像を作ります。

 

モデリングでも今まで制作したことのないものを三視点法で作成方法を模索することができますが、三視点成形は厳密には構想を形にする手段ではなく、既に完成した設計を精密に組み上げるために使われる手段です。

 

では、有名建築士はどのような方法によって構想を形に、そして模型を作っているのでしょうか?

 

例えば、

  • フランク・ゲーリーは手作りの模型で厚紙を折ったり丸めたりして、ボリュームを少しずつ増やして完成像に近づけていきます。
  • レム・コールハースはコンセプトを決めてから、事務所の従業員達が作った数十、数百にのぼる手作り模型の中から、意向に合うものを一つ選び、さらにその発展した形を模索する方式を取っています。
  • 安藤忠雄はパーススケッチを何枚も描くことで、空間構成を模索して模型を作っています。

 

しかし、どの建築家も模型を作る前に必ずスケッチを描いて、そのスケッチの線をエッジとして捉えて、面や物体の構想を練っています

 

物体の輪郭であるエッジを編集し、エッジから面と体積のある物体を再現することで、建築の大まかな印象や材料の特徴を掴み、非常に効率的に3Dモデリングをこなせるようになります。

無限階段モデリング

特定のモデリングをする際に、最も重要なのはモデルのエッジまたは輪郭線です。今回は無限階段のモデリングを例にプラグインの使い方とモデル作成の手順を見ていきましょう。

SketchUpによるモデリング

SketchUpはPolyロジックのモデリングソフトで、非常に分かりやすいUIと、豊富に拡張できるプラグインが特徴的です。

 

特にS4Uのプラグインの中には、SketchUpにないNerbs曲面の成形機能が追加されているので、従来作ることの難しかったものを素早く作ることが可能です。

 

そしてなんといっても、UVの機能が優秀で直接陰影を投射することができるので、現実を再現した状態でモデルを確認出来ることが最大の強みです。

SketchUpの使用するプラグイン一覧

大前提として、モデリングの方法や手順はひとつだけではありません。

今回無限階段のモデリングに使用するプラグインは、

  • Fredo Box Twisting
  • Extrude lines by D Bur_TIG
  • JointPushpull
  • Bezier_Segmentor
  • Select horizontal edges
  • RBC LineToComponent
  • LinesToColumns

以上になります。

無限階段の発想

まずはじめに、無限階段とはランドスケープデザインの産物で、他にも似たような設計はドイツやオランダ、英国、中国などで見ることがあると思います。

 

特徴として正視した円形を俯瞰した状態で時計回り(また逆方向)にねじりを入れることで、俯瞰したときに∞(無限)のような形をしています。

 

地表には二箇所階段に登れる部分があり、頂上まで螺旋した階段をのぼると、また螺旋状に降れるような構造になっています。

 

構造は3D曲線による独立した鉄骨造で、階段、手すりは曲線型の鉄骨によって支えられています。

実践

このモデルを作成するにあたって、今回の3DモデリングソフトはSketchUp2020を使用し、前述のプラグインをS4Uのサイトでダウンロードしています。

 

プラグインを使わずに操作することも可能ですが、モデルの複雑さが増すと、物体の選択や曲面操作にかなり時間が掛かってしまいます。

 

そして同様の操作をArchiCADやRhinoceros、3dsMAX、VectorWorksなどのモデリングソフト上で行うことができます。

 

具体的な操作法もまとめますが、具体的な数値は全て事前に計算してから得ています。この方法ひとつだけではありませんし、もっと速い方法もあれば、プラグインを使わずにやる方法もあるので、そちらはぜひ各自で試行錯誤してください。

 

0.今回の説明では、画面奥に向かってY軸、画面に垂直の方向はX軸、上下に向かう垂直方向がZ軸として0‐XYZ軸を前提に解説していきます。

 

1.YZ平面方向に向かって半径6mほどの円*2を描きます。f:id:asahi-kaki:20200724220626p:plain

2.Circleの工具を使用した際に数値を入力することで線段数を編集することが可能なので、デフォルトの24辺数が少ない場合、その倍数の48辺数、または96辺数に変更して使います。

3.次に、円をX軸方向に1m間隔で左右に複製します。

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4.複製の際、移動*3をCtrlを押してから移動したい方向にカーソルを合わせ数値を”1”mと入力します。

5.左右と真ん中にある三つの円を全部選択*4し、グループ化*5します。

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6.グループを選択してから、プラグインFredo Box Twistingを実行します。カーソルを選択中のオブジェクトに合わせて、Z軸に物体に時計回りまたは半時計周りにねじりを入れていきます。Fredo Box Twistingは一度に回転できる角度が180°以内なので、130°、120°と合計250°程度、二回に分けて同じ方向にねじりましょう。

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7.グループをダブルクリックして、真ん中のねじれ円のみを保留します。*6

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8.BezierLineのプラグインをインストールした状態でねじれ円の線分を選択し、右クリック、ポップアップから”LineConvertTo”→”BZ_Segment”から線分数を”150”に変更、よってねじれ円の線分が150になるので、無限階段の段数も150段*7になります。

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9.ねじれ円を選択し、プラグインのExtrude linesでZ軸方向に引き上げて曲面を生成します。

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10.ねじれ曲面の表と裏の面を選択してそれぞれ0.6m程度プラグインのJointPushPullで引き出します。そして必要のない上部の面を削除します。

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11.ねじれ物体を全選択*8して、ToolBarからSoften edgeの角度を最低に設定して、全ての線(またはメッシュ)を表示させます。

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12.再度ねじれ物体を全選択*9して、プラグインのSelect horizontal edgesを使って、Z軸に垂直の辺を全て選択してグループ化、XY面に垂直の辺を全て選択してグループ化して、それぞれ階段のモデル、手すりのモデルとして作成します。

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階段部のコンポーネント

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手すりの支えのコンポーネント

 

13.階段となる辺に対して全選択したあとに、プラグインRBC LineToComponentを実行、するとすべての線がコンポーネント化されるので、コンポーネントの中で階段状にExtrude Linesで厚みと幅をつけていきます。地表の階段入口の部分のコンポーネントを削除します。階段のコンポーネントも方向を調整して統一させます(ここではコンポーネントの半分を削除)。

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14.手すりの支えとなる辺に対して全選択し、LineToComponentですべての辺をコンポーネント化して、コンポーネント内で辺に対してプラグインのLinesToColumnを実行(半径:0.015m)します。地表の階段入口の部分のコンポーネントを削除します。

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15.手すりの部分に対しても前述の方法で、単独に曲線をグループ化してから、LinesToColumn(半径:0.02m)で作成します。手すりの支えに合わせて階段入口部分の曲線は事前に削除します。同じく曲線の支えとなる鉄骨は半径:0.2mほどに設定してLineToColumnを実行します。

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16.階段部と手すりの支え、手すりのグループを全て元の模型の座標に移し、必要のないもの部分を削除して、支えとなる曲線の鉄骨の位置を階段の下部へ移動して完成です。

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補足

SketchUpに関する記事をまとめています。

asahi-kaki.hatenablog.com

*1:メッシュ面が最適化されている

*2:Circle

*3:Move

*4:Ctrl+A

*5:右クリック→ポップアップからグループ(Make Group)を選択

*6:Fredo Box Twistingが正常に軸を認識させるために他の円で補助を用意する必要があります。

*7:一段の高さが約150mmに収まるように事前に計算します

*8:トリプルクリック

*9:トリプルクリック