建築・都市計画のための著書である「パターン・ランゲージ-A Pattern Language」について解説をしていきます。
パターン・ランゲージとは
パターン・ランゲージはChristopher Alexander*1氏(以後記述 C.A.氏)が提唱する人々が心地よいと感じる環境を253ものパターンに記した理論集です。
日本の神奈川県真鶴町の「美の条例」や埼玉県川越市の「川越一番街 町づくりの規範」などの都市計画・建築外観にもパターン・ランゲージの考え方が反映されています。
パターンとは何か?
建築家は建築をデザインする際に、問題を解決するために様々な決断を迫られます。本書はまるで語学事典のように、特定の状況下で使用できるパターンをまとめています。
パターンの解説
問題が既に公認の解決方法がある場合を前提として、その問題には特定の場所(語句)、皆が認めた解決方法(文法)があります。パターンそれぞれに名称があり、説明、引用項が記載されています。
その解決方法を典型例として記録することで、解決方法集(事典)として記録することができます。つまりパターンとは建築家自身の経験を基に、問題への理解や解決方法を記したものになります。
パターンランゲージの使い方
パターンごとに用語の名称(語彙)、解決方法(語句)、解決方法の利点や使用文脈(文法)としての表記があり、パターン同士で相互引用がされている上、巻末には索引が記載されています。
用語(語彙)
建築家が注目している話題に対して命名したデザインのルール、問題解決法をまとめたものになります。
また用語はデザインパターン(Design pattern)と呼ばれ、例として、建築の用語では集落、建物、部屋、窓などに分類されて記されています。
解決方法(語句)
用語についての説明があり、問題解決法が適合できる場所や状況について解説しています。
問題解決に必要な用語同士、例として、部屋のパターンには採光方法と人の出入り方法などの関連パターンも記されています。
解決方法の利点や使用文脈(文法)
パターンの使用文脈では、そのようにデザインを実行することで得られる効果(費用対効果)について解説しています。
効果が思わしくない場合、他の解決法に切り替えることで合理的な設計をすることができます。
索引
索引を利用することで類似した問題からすばやく複数の解決策を検討することができます。
パターン・ランゲージの功績
生成文法
実用的な建築デザインのシステムを描写・体現していることが本書の最大の功績でしょう。パターンは単純な型ではなく、有機的に構成できるように自在に組み合わせられることに重点を置いています。
本書のシステムは理論数学者やコンピューター科学者からは「生成文法」とも呼ばれ、建築家の経験や成功体験を体系化していることが特徴です。
実用性の高さ
C.A.氏の執筆は魅力的で調和がとれている中世都市の観察から始まりました。都市や空間、建築物で活動する人の生態をしっかりと言語化されている点は非常に評価されています。
また、本書は用語ごとに写真と設計のルールを提供し、プロジェクトの環境から魅力的な要素を認識し、都市、街、庭園、建物、部屋、家具、ドアノブまでのあらゆる規模で実用的で安全な設計をするための方法について解説しています。
古典的手法と再現性の高さ
このシステムが複数の建築家によって実際に検証され、パターンの全てが古典的な手法で構成されている本書は極めて稀な理論書だと言えます。
「オレゴン大学の実験」(1975年)ではこのシステムの一部分を実際にオレゴン大学の計画手段として採用しています。
他分野への影響
本書の考え方は複雑なシステム・ソフトエンジニアリングやコンピューター科学にも適用され、C.A.氏の著書からゲームソフト「シムシティ」*2の開発者Will Wrightは構想を得たと話しています。
パターン・ランゲージに伴う批判
C.A.氏のパターン・ランゲージでは建築家が創作活動に一般的に使用する帰納法*3ではなく、演繹法*4による理論展開をされています。
つまりパターンの価値観を集団で共有している場合、同じ結果・結論を得ることができますが、パターンは個人の体験や審美観、宗教観に左右されるのでC.A.氏は本書ではあえて個人の体験の差や文化の違いについては提言されませんでした。
パターン・ランゲージに伴う批判の多くはこの前提条件を受け入れられない、或いは理論展開に個人の価値観が反映されてしまうことに違和感を覚える、といった旨だと思われます。
パターン・ランゲージ:シリーズ
同氏の著書「時を越えた建設の道」、「オレゴン大学の実験」にはさらにC.A.氏による詳しいデザインに対する哲学、実践的な内容が含まれています。
気になる方はぜひご覧になってください。
C.A.氏の著書一覧
C.A.氏の著書で邦訳されているものは
- 形の合成に関するノート(1964年)
- 都市はツリーではない(1965年)*5
- オレゴン大学の実験(1975年)
- パターン・ランゲージ(1977年)
- 時を越えた建設の道(1979年)
- まちづくりの新しい理論(1987年)
上記になり、その英版題名は、
- Notes on the Synthesis of Form(1964)
- A City is Not a Tree(1964)
The Center for Environmental Structure Series:
- The Oregon Experiment(1975)
- A Pattern Language, with Ishikawa and Silverstein(1977)
- The Timeless Way of Building(1979)
- A New Theory of Urban Design, with Neis, Anninou, and King(1987)
になります。
補足
設計方法論について詳しい記事をまとめました。
*1:クリストファーアレグザンダー、ウィーン出身の都市計画家・建築家。カリフォルニア大学バークレー校所属
*2:Sim City(シムシティ)、SimCity seriesのリアルタイム都市経営シミュレーションゲーム、1作目は1989年発売
*3:帰納法(きのうほう)、理論展開法のひとつで、特別な事例から普遍的な事象を説明する方法
*4:演繹法(えんえきほう)、理論展開法のひとつで、一般的な事例から特別例を説明する方法、前提条件が真であれば、結論も真
*5:「都市はツリーではない-A City is Not a Tree」は磯崎新、多木浩二など都市論に大きな影響を与え、英版のPDFは無料で閲覧ができます。