建築デザインを前提として、2018年から2019年までのA.I.技術を活用した設計について解説します。
A.I.設計による建築デザインの研究
2018~2019年の期間、コンピューター科学の領域でA.I.*1は幅広い分野での活用が注目され、建築デザインでも人工知能の技術の一部を使って住宅設計や複雑なプログラムの検討や補助が行われるようになりました。
注目されている理論
特に機械学習*2や算法*3がコンピューター科学から分岐され、自動生成技術*4が建築業界の仕事を脅かすのではないかと言われています。
この自動生成技術を支えている理論についてさらに詳しく解説します。
平面図自動生成プログラム
ArchiGAN-開発背景
ArchiGANはハーバード大学の大学院生Stainislas Chaillou(以後記述S.C.氏)が制作した平面図生成プログラムです。
ArchiGANはArchi-(Architecture・建築)と-GAN(Generative Adversarial Networks・敵対的生成ネットワーク、詳細後述)の組み合わせであり、三つのステップで住宅の平面図を生成できるほか、「Generation stack」の機能を使ってマンションを使用者に合わせた空間の仕様にシミュレーションできるようになります。
GANsとは
GANsとはGenerative Adversarial Networkの略で、敵対的生成ネットワークと呼ばれる機械学習のアルゴリズムの一つです。
GANsは競争をする二つの深層ネットワーク、
- Generator 生成器:判別器を騙すために、訓練・学習によって得られた特徴に応じてデータ(大部分は画像)を生成します。
- Discriminator 判別器:データがGeneratorによって生成されたものか、オリジナルのデータかどうかを判別し、Generatorが生成した偽データを探し出します。
上記の二つから成り立ちます。
GeneratorとDiscriminator、偽造データ製造する部分と偽造データを判別する部分のAdversarial(敵対的)関係によって、二つのネットワーク間でデータを生成する能力を上げていく算法になります。
S.C.氏はArchiGANプログラムを学習させる際にGANsによって研究結果を導き出しました。実験初期ではモデルの精度にばらつきがありましたが、250世代にのぼるシミュレーションの結果、ArchiGANにはある種の直感、或いは正確な判断基準が備わりました。
自動生成されるデータの精度が上がり、デザイナーと顧客の要望に応えられる結果を出せるようになったのです。
生成過程と原理
1.Building Footprint 敷地計画
建築敷地面積は周囲の環境に影響され、S.C.氏はボストン市のGIS地理情報データで機械学習*5をすることで自動的に敷地の条件に合う建築敷地を生成することに成功しました。
生成過程ではIsola氏らが2017年に発明したPix2Pixのモデル、後にWang氏らが改良を加えたPix2PixHDという生成技術を利用し、画像を取り込み新たな画像を反映させる学習法を採用しています。
ArchiGANの研究過程では敷地の境界線、建築物の平面面積、初期条件と結果をペアにした画像を読み込ませ、建築平面の特徴と敷地との類型的関係を学習させました。
2.Program Repartition 空間計画
敷地計画によって得られた画像に入り口、窓の位置を入力することで、新たに建築の機能(ゾーニングまたは部屋)を自動で生成します。
研究者らは800ものマンションの平面図をモデルに学習させ、部屋ごとに色分けして面積を振り分ける機能を搭載しました。
3.Furniture Layout 家具配置
同様に、初期の空間計画、家具を配置し終えた画像をペアで読み込ませて学習したことによって、部屋の色分けに応じた家具配置を自動で生成することができます。
このステップでは窓や構造などの条件を前回のステップから受け継ぐことができます。
モデルの連携とマンションの生成
S.C.氏はGAN原理をマンション、住宅区の設計に応用する試みもされました。
算法によって得られた敷地計画、空間計画、家具配置の3つの手順をそれぞれモデルとして、複数枚の画像を貼り合わせ、一枚の画像として処理することで、多戸数の平面図を生成し、顧客は空間計画、家具配置によって分割された空間を自分の要求を反映させることができるので、事実上全ての階層ごとに異なる平面計画を実現することができます。
顧客の要望通りの入口、窓の位置、階段の位置をデータに取り込んだ後、空間計画の算法に再度生成させ、実現可能な平面図を自動で作り上げることができます。
ArchiGANの潜在的な問題
現在Pix2Pixによる算法は必ず加工されたペアの資料を学習データとして提供しなくてはなりませんが、未来の展望としてCycleGANなどの算法を活用することで、学習画像を増やしてさらに精度を高めることもできます。
生成した画像は現在ピクセルデータとして保存されていますが、ベクトルデータに変換し、シミュレーションの結果をCADなどで編集可能にできるようにする必要があるでしょう。
Finch3D
Finch3Dは2019年、二つのスイス建築事務所Wallgren ArkitekterとBOX Byggの共同開発によって平面図自動生成のツールが誕生しました。
Rhino+grasshopper上でのプログラミングによって、規模や条件を問わず設計初期段階のあらゆる状況で利用できる上、時間がかかるであろう平面図の描画作業を高速化できることが最大の特徴です。
将来的にFinch3Dは12ものgrasshopper上のプラグインという形式で2020年中に利用できるようにするとの発表がありました。
- Adaptive Plan/3D:条件を基に相応の平面空間をリアルタイムで生成します。
- Multiple Plans:任意の範囲を選択し、複数の住宅平面図を生成します。
- Square Meters:進化的算法*6によって、最大部屋数の結果を算出し、資金の節約ができます。
- Column Grid:有機的に建築内部の柱の位置を改善させることができます。
- 3D Organic/organic:有機的な形から必要な部屋の大きさのマンションを生成します。
- Footprint:境界線を描くことで敷地を生成し、面積や比率を算出できます。
- Multiple Volume/Volume:異なるライナーに合わせて建築体積を生成します。
- Stairs:高さを設定することで自動で階段を生成します。
- Garbage Bins:発生するゴミの量とサイズについて算出できます。
Finch3DのVlogやHPで機能の紹介をされています。気になる方はぜひ検索してみてください。
Evolving Floor Plan
Evolving Floor PlanはJoel Simon*7(以後記述J.S.氏)による2018年の学校設計計画を最適化させるための実験のプロジェクトです。
プロジェクトではGraph contraction(図面縮約)とAnt-colony pathing algorithms(蟻コロニー最適化)が平面図生成の算法に使用され、Evolving Floor Planは小学校の廊下の最短距離算出や、歩行時間の短縮、室外景観の配置や緊急避難動線の最適化などに貢献しました。
生成原理
生成原理には、
- Graph Contraction 図面縮約算法:視覚的に魅力のある配置をします。
- Ant-Colony Pathing 蟻コロニー最適化算法:蟻の巣状に派生する蟻を再現することで、最も優れた動線を統計する方法です。
の二つを利用しています。
過程では、属性と遺伝子といった各方面の参数を設定し、局部の修正に時間をかけることなく、全体のモデルからデザインを最適化できるようになっています。全ての部屋・空間には遺伝子が振り分けられ、デザイナーは大きさや比率などの条件を入力し、遺伝子同士による連結の傾向を設定することができます。
遺伝子コードはNeuroEvolution of Augmenting Topologies(NEAT)の一般化を経て、神経ネットワークを図形に発展させ、発展段階の結果を記録することができます。過去の結果画像と組み合わせることもでき、最終的にデザイナーに多種類の平面図の生成結果を提供できます。
1.初期配置
メイン州の某小学校の初期配置を設定します。
2.算法最適化
最適化により、教室間での交通量と建築資材使用率を最大限縮小することができます。
3.窓を設置
窓の配置の優先度は教室の収納部よりも高く、この優先度順が建築内部に庭園を生成するのに一役買っています。
4.マッピングの概要
- 初期の物理状況を表示します。
- 物理演算の最終的な結果を表示します。
- 境界線を表示します。
- Voronoi配置に従い幾何学ネットワークを表示します。
- 内部境界線と主動線を描画します。
- 平面図を生成し、内部境界線に入口を表示します。
プロジェクトで実践されている自動生成デザイン
Biotic Partition-Airbus・Autodesk
Airbusは2015年にAutodeskと合同で自動生成デザインに関するコンセプト「Bionic Partition」についての研究を始め、従来の建材より45%重量が軽いものを発明しました。
2019年にAirbusとAutodeskのチームによる自動生成デザインによる工場を最適化するためのプロジェクトが発足されました。Airbus側は自動生成デザインによって更なる持続可能なデザイン(Sustainable design)を実現し、工場に働く人々の仕事環境を効果的に改善することができるといった主張をしています。
未来の建築家の仕事
A.I.によるデザインツールの出現は建築業界に無限の可能性を提供すると同時に、人々の仕事のあり方を再確認しなくはならないきっかけをくれました。
Is business architecture dead? Why focus on artificial intelligence?
建築家Rron Beqiriは2016年にA.I.を仕事のパートナーとして、
- Citizens:民衆が日常使用するデバイスによって情報を得る
- Internet:資料をクラウドにアップする
- Sorting Algorithm:算法によって、最も関連性のある資料を提供
- Analyse by A.I. Software:A.I.分析によって、初期デザインを生成
- Analyse by Architects:建築家や都市計画家は得られた結果をもとに判断し、設計計画を補完する
上記のようにデザインを5つのプロセスに分けられると理論を提唱しています。
ツールとしてのA.I.は更なる進化を遂げ、多様な可能性を提供させることができますが、建築家の職務を全てA.I.に置き換えられたとき、建築家は他の必要とされる道を模索しなくてはならなくなります。
しかし技術の刷新に悲観的にならず、あくまでツールとしてA.I.に関する知識をつけることは、建築家が新しい時代を生きるために必要なことであると感じております。
参考
- Stanslas Chaillou, ArchiGAN: a Gnerative Stack for Apartment Building Design, 2019. https://devblogs.nvidia.com/archigan-generative-stack-apartment-building-design/
- Tom Ravenscroft, Finch3D, 2019. https://www.dezeen.com/2019/06/27/adaptive-floor-plans-wallgren-arkitekter-box-bygg-parametric-tool/
- Joel Simon, Evolving Floorplan, 2018. https://www.joelsimon.net/evo_floorplans.html
- Raymond Deplazes, Autodesk and Airbus Demonstrate the Impact of Generative Design to Retool Urban Housing, 2019. https://adsknews.autodesk.com/news/autodesk-airbus-generative-design-aerospace-factory/
- Rron Beqiri, A.I. Architecture Intelligence, 2016. https://futurearchitectureplatform.org/news/28/ai-architecture-intelligence/
補足
さらに体系的な方法論の記事についてまとめました。
*1:Artificial intelligence、人工知能
*2:Machine learning system、マシンラーニング:特定の課題を効率的に実行する統計モデルの科学分野
*3:Algorithm、アルゴリズム:問題を解くための手順を定式化したもの
*4:Autogenerative design:プログラミングに詳しくないデザイナーらがコンピューターによって生成された結果を採用しデザインに活かせる仕組みのこと
*5:Deep learning、深層学習:特定のアルゴリズムにデータを入力し、データの内在的な特徴や関係を学習させることで、特定の任務を実行できるモデルのこと
*6:Evolutionary solvers and algorithms:問題に応じて近似解を得ることができるアルゴリズム