かーきアサヒの建築手記

建築デザインについての時短術や現留学先での生活の違いを面白くまとめていきます

建築デザインの時短術!設計方法論について

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設計方法論の基本原理や内容について解説していきます。

 

 

建築設計方法論とは

建築設計方法論はデザインメソドロジー(Design Methodology)とも呼ばれ、主に設計の方法について研究をする分野です。

 

方法論は建築デザインに対して具体的な設計方法を示すだけではなく、デザインの過程、建築家の理論、知識体系について研究する高度な概括作業でもあります。

 

設計方法論の研究内容

方法論の研究対象として、

  • 創作者の設計行為
  • 設計の過程と設計中に行われた分析に基づいて方法論モデルを構築されます。

 

一般的なデザインでは普遍的な設計の原理、実践、過程について話し合われますが、方法論の研究では、さらにどんな方法でデザインをするか、どうやってデザインを指導するかといった問題に焦点を置いて語られます。

方法論研究の必要性

伝統的な設計の方法では、建築家の経験や直感的な判断、インスピレーションに頼ることが多く、複雑な知識体系を活用することが難しいケースがあります。

 

過去の方法論について分析し、建築家が使用する設計方法について知ることで、建築創作の理解度を深めることができます。

伝統的な設計の方法と問題点

伝統的な手順を踏む設計者は、

  1. 機能(狭義的な空間機能、空間の大きさ、面積)を確認
  2. 平面図の初期案を描く
  3. ラフ案でできる限りの空間を組み合わせを試す
  4. 平面図の輪郭を描きだし、立面、断面を清書
  5. 平面、立面、断面図を基にパースを制作
  6. パースで設計者の意図を説明
  7. 各手順は建築家が満足いくまで試行・繰り返される

上記の通りに制作しますが、大部分が設計者の経験や主観判断によるものになります。

 

デザインの結果が重視されるため、建築家らは時代に応じて奇抜なデザイン、注目されやすいデザインの傾向を取り入れることが多くなります。

その結果、このようなデザインの方法が繰り返し使用されると、

  • 建設量が増えると、デザインの質を保つことが難しくなる
  • 建築的手法が形骸化し、表面的な模倣、剽窃が横行してしまう
  • 商業の拡大と、消費時代に合わせ、建築としての基本と意義が薄れてしまう
  • 建築と都市の風貌から個性がなくなる

などの弊害が生じてしまいます。

問題を回避するための手段

上記の問題点を改善するために、

  • 建築デザインプロセスの複雑性と社会性を明確にする
  • 創作過程に影響される要素の分類とデザイン結果との因果関係を築き上げる
  • 新時代の質の高い建築作品の創作プロセスを討論する
  • 様々な設計の実例をもとに交流をし、建築創作過程の経験をまとめる

といった手段を取るべきでしょう。

デザインの結果だけではなく、デザインの過程にも焦点を向けることが重要なのです。

設計方法論研究の過渡期

欧米の建築設計方法論の研究では、

「個人の智力、精神性、主観的な方法に依頼することなく、科学的な方法と道具によって、設計過程を定量分析、図式思考、群衆参加型、合理性のあるを設計方法を採用するべきである」

とまとめています。

 

40年に渡る方法論の研究により、方法論は

  1. 設計過程の管理化
  2. 問題の構造化
  3. 設計活動の本質の究明
  4. 設計方法の哲学の究明

上記の段階を経て細分化が進みました。

設計過程の管理化

1960年代、設計方法をシステム化させることに尽力され、客観的にデザインをプログラミングすることで合理的な建築形式を作成できると信じられてきました。

代表人物:J.C.Jones、Christopher Alexanderなど

問題の構造化

1960-1970年、問題に内在する本質を発見し、問題を分析することで、問題解決のための設計方法を編み出し、デザインの技巧、技術についての研究がされました。

代表人物:Geoffrey Bradbent、Lawrence Halprinなど

設計活動の本質の究明

1970-1979年、建築の設計活動の認知方法についての差異を調べ、設計者の思考や仕事の傾向を明らかにし、設計プロセスをパターン化することで適格な設計方法を探す研究がされました。

代表人物:Herbertr A.Simon、Jane Darkeなど

設計方法の哲学の研究

1980年後、設計活動の本質や設計方法の哲学的基礎が探求されるようになり、設計方法の研究は必ず考えの原点(哲学)に基づいて考えられるようになりました。

代表人物:Bill Hillier、Fozなど

 

方法論の解説

現在建築創作で使われる方法論は、

  1. 事例と学習
  2. 分析と統合
  3. 仮説と解決
  4. 抽象と敵対

上記の4項のように分類ができます。

事例と学習

既存の事例を真似て学習する方法は、広くデザインの実践に応用されているやり方のひとつです。前例を模倣することは最も簡単な方法で低費用で実行できるので、初心者に適している方法です。

 

手法の性質上、結果の出来は模倣の手段や方針に左右され、同時に模倣する事例に設計の結果が強く影響されます。事例からどの部分を残し、軌道修正を施すのかを見極める必要があります。

 

事例と学習のメリット

複数の設計事例をもとに創作をする際、大衆に受け入れられているものを再設計するため、世間多数の価値観に合ったものをつくれます。

 

そして短期間にデザインを終えなくてはならない場合、「事例と学習」は非常に効果的でもあります。

 

事例と学習のデメリット

設計の思想に飛躍がないため、似たり寄ったりな手法、手段を繰り返す恐れがあり、新しい創作をする原動力も少なくなってしまいます。

 

設計を始めたばかりでは、事例の善し悪しを判断することは難しいため学習内容が誤った方向に進んでしまうことがあります。

 

分析と統合

1960-1970年代に提唱された方法であり、分析に必要なものを列挙し、総合的な問題をまとめ、デザインに評価できる体系をつくるのがこの方法の特徴です。

 

分析と統合の方法を最も早く取り入れたのがChristopher Alexanderであり、彼の研究もこの方法論の実践について語られています。

 

Alexander氏の著書「Notes on the Synthesis of Form, 1964」ではデザインのロジックに順序問題について注目し、現代数学の知識を用いてデザインの方法論を築き上げています。

 

分析と統合のメリット

「分析と統合」の方法は問題を体系化して、全ての問題点を関係因子に振り分けることで問題に優先順位をつけてツリー型に展開することができます。

 

この思考法によって建築家は重複するデザインやミスを減らすことに成功し、デザインの手順や時間を大幅に短縮することができました。

 

加えて、技術的な道具を使用することで、理性的に問題を分析する風潮ができ、建築的な技能以外にもさらに広い分野の知識を織り交ぜて建築空間を設計するようになりました。

 

分析と統合のデメリット

ステマチックな分析の方法では初期状態Aと最終状態Zを定義して場合、AからZまでを変換する過程が最も重視されます。しかし設計目標が複雑化、多様化している場合、定式化されたシステムに置き換えることは困難でしょう。

 

クライアントの要求や経済的、文化的な要素を定量化してシステムに組み込むことも難しく、人的な結果が大きく関わる場合、デザインの結果が要求に相応しいかを判断するには懸念が残ります。

 

仮説と解決

1970年代にディカールによる理性的な帰納哲学の方法は改めて考え直され、科学が解決する問題は経験によって発見されるわけではなく、仮説を提起して初めて問題が認識されるのではないかと考えられるようになりました。

 

「仮説と解決」では、問題→探索的に解決→誤りを排除→新たな問題の段階を経て、設計の問題を試行錯誤することから始まります。

 

科学的な仮説では試行錯誤が前提になりますが、設計的な仮説では社会性、経済性が伴う創作行動なので、物質的な試行錯誤をすることはできません。試行錯誤は主に思考の中だけで完結されます。

 

仮説と解決のメリット

「仮説と解決」では設計者が建築物の意義や問題認知、設計方法について様々な要素を問題対象ごとに対処して考慮しなくてはならないため、「分析と統合」では処理できない細部の情報、曖昧な情報をより深く分析することができます。

 

「分析と統合」のメリットにさらに個人の主観的な判断を加えることで、柔軟な発想をすることができます。

 

仮説と解決のデメリット

「仮説と解決」の方法は「分析と統合」の改良版でもありますが、一方で建築家が見る世界での想像や仮説は、必ずしも建設的な価値観ではない、あるいは科学発展の方向と一致しない場合があります。

 

デザイン後期では仮説に使用した手法を客観的に検証しない限り、仮説の正誤は判明しません。

 

建築設計の性質上、実際に建設して仮説を実証するのも現状では困難でしょう。再現可能な範囲での「仮説と解決」からある程度推理する必要があります。

 

抽象と敵対

「抽象と敵対」は難易度が高く、ハイクラスな創作方法と言えます。

 

物事の原型を理性的に考え加工することを「抽象化する」と呼びます。抽象的な概念が形成された後に敵対(Anti-、Adeverse)となる概念の原型を作り、具体的な形に落とし込み、さらに修正を加えた結果がこの方法で作成したデザインになります。

 

工業革命後、技術の飛躍的な進化は、建築意匠の可能性を広げ、人々は自然の万物からの原型をもとに構造形態を刷新していきました。その中には言語化するのが難しいほど紆余曲折をたどった例も存在しています。

 

抽象化された物は人類の理性的な思考と抽象的な思考を複合したものと言えるでしょう。その考えを体現している建築家はル・コルビュジエが代表です。

 

他にも人工知能のGANsも「抽象と敵対」の方法と似たアルゴリズムから成り立っています。

 

抽象と敵対のメリット

この方法は社会文化の本質(歴史、哲学観、価値観などの意識形態)、自然世界から創作者に与える創作素材(自然形態、原型、元素集合などの物質形態)を深く掘り下げることができます。

 

前述の方法論と異なり、建築美へのアプローチが深く関連し、考慮されている部分も非常に興味深い点です。

 

抽象と敵対のデメリット

「抽象と敵対」は大量の実践を積み重ね、原型素材を蓄積し、昇華させるのが方法の核心です。初心者やプロジェクトに参加したばかりの建築従業者に適応させるには時間とある程度の経験の積み重ねが必要になります。

 

大量に数をこなさなくてはならない設計や短期間を要求される設計ではふさわしくないと思います。

 

方法論の関係性評価

方法論の性質を評価する内容で

  • 革新性
  • 制限条件突破度
  • 思考柔軟性
  • 目標達成度
  • 問題解決度
  • 習得容易性

などを目安に比較していく場合、

※表記上、事例と学習:A、分析と統合:B、仮説と解決:C、抽象と敵対:D とします。

  • 革新性:      C > D > A > B
  • 制限条件突破度:  C ≒  D >  B   A
  • 思考柔軟性:    D > C > B > A
  • 目標達成度:    B > A > D > C
  • 問題解決度:    B > A ≒  D > C
  • 習得容易性:    A > C > B > D
  • 全体平均:     D > C > B > A

 のような比較関係があります。

 

 全体から比較すると事例ー模倣の方法は習得が容易であるため、初心者に比較的使われていますが、一方で抽象ー敵対の方法は習得が難しい分、全体的なスコアが高いことが分かります。

 

方法論を利用する上での注意点

矛盾=間違いではない

理性的な分析と相反する矛盾点が出てきた際、矛盾は誤りを示しているのではなく、問題の所在を表しているだけなのです。その場合、問題を曖昧にすることで解決することもあります。

方法論に終わりはない

方法論は哲学と同じく絶対的な道ではなく、先人が切り開いた道のひとつです。それにならって同じ道を行くのか、違う道を行くのかは自分次第なのです。技術革新など時代がガラリと変われば新しい方法論にたどり着くこともあります。

強要は控える

自分に合う方法を試すのが最も生産的です。価値観や文化が違う他人に同じ方法論を強要すべきではありませんし、意見の押し付け合いや衝突は避けましょう。

問題を看過しない

方法論を利用するうえで陥りやすい過ちとして、複雑な問題を過度に簡略化していたり、解決する有効な手立てがないため、問題について触れなかったりすることがありますが、問題を認識する態度は常に保たなくてはなりません。

 

問題を看過せず、さまざまな方法を試したり、他人と共有したりして、解決策を模索しましょう。

補足

 Christopher Alexanderの方法論の記事まとめです。

asahi-kaki.hatenablog.com