3DモデリングやCADは手首ブレイカー?腱鞘炎で建築家を病院送りにしている実態がやばすぎた…
もはや3Dモデリングといったら、必ず10人に1人は不思議な形状のマウスを手にしているでしょう。彼らが使っているマウスはエルゴノミクスマウスやトラックボールマウスといって、手の腱の負担を減らすための設計が施されています。
別にそのマウスの形状やデザインが好きで使っているわけではありません。度重なる複雑なCAD図面の編集と年間400万クリックを余裕で超える反復操作で、指、手首や腕がもはやただのマウスの操作には耐えられなくなってしまったのです。
負担がかかった状態でのマウス操作を続けるあまり、手首や腕に違和感が残り、行く末には病院で腱鞘炎だと診断されるわけです。
なので3DモデリングやCADで腱鞘炎になってしまう原因、弊害とその対策法について解説しようと思います。
高強度のマウス操作
自分のいた作業場では、3Dモデリングで主にSketchUpを使うのですが、3D模型を作り込むにつれてグループやコーポネント、そして細かなディテールの量が想像以上に増えてきます。
SketchUpでは、目当てのグループを編集するたびにダブルクリックするわけですが、グループにグループに重ねると何度もダブルクリックしなくてはなりません。さらに物体の全選択をする際にはトリプルクリックをする場合もあります。このようなモデリング環境では、ディテールを作り込んだ状態では修正を加えるだけで気が滅入ってしまいます。
そしてCADや製図、パースの角度をマウスでの操作で調整する場合、1ドットでもずれると意図せぬ操作の暴発が起こることがあります。特に腕や手首だけで精度の高い操作を要求される場合、それだけで大変神経を使ってしまいます。少し時代を感じますが、イライラ棒ゲームを遊ぶ…という情景が浮かんできそうです。
腱鞘炎による深刻な症状、使用してみるマウスの数々
建築家は完全なデザイン案を仕上げるのに2-3ヶ月ほど、速い場合でも最低3週間は必要です。短期間で仕上げるとなると、連日徹夜でモデリングをすることも珍しくありません。建築デザインは重労働であり、3Dモデル、模型、設計図面、パース図、プレゼン資料の作成などやるべきことが盛りだくさんなのです。そんな中腱鞘炎が慢性化すると手を自由に動かせなくなったり、腕や手首にだるさが残り、作業効率が著しく下がるだけではなく、焦りなど精神的ダメージも蓄積していきます。
私は長い間腱鞘炎、腕の違和感に悩まされてきました。きっかけはコンペに向けてデザイン案を大量に作ることになり、模型の制作や修正に明け暮れた結果、徐々に腕に疲労感、違和感を覚えるようになりました。マウスの効きが悪くなり、それを使い続けたときに腕や腱に激痛が走り、医者に相談したりして、元のマウスを換えて色々なマウスを試してみることに…
はじめは少し高めのマウスを使って改善することもあったのですが、腕や手首が疲れてくると、痺れや違和感が戻り、しばらくは文字が自由に書けなくなったりもしました。
その後紆余曲折を経て、トラックボールマウスが自分に合う、負担の少ないマウスだと分かったのです。
今回はそんないろいろあるマウスなどについて実際に使った機種の写真を載せて、ざっくりと紹介できたらと思います。
エルゴノミクスマウスの特徴
- マウスを握った腕にねじりが生じるとクリックする指の腱や手首に負担があるので、その対策として、エルゴノミクスマウスは縦に角度がついています。
BlueToothとワイヤレスのものがあり、線を繋げなくてよい分マウスの操作感が軽く、一般的なマウスと比べると確かにクリック時の負担は少なくなります。しかし精密性においてはただのマウスと大差ありません。細かい1ドットを操作するのはすでに疲労感や違和感を持っている場合は苦痛でしかなく、作業場ではあまり好評ではありませんでした。
腱鞘炎予防やかっこいい形状という面では一般的なマウスよりはマシだとは思いますが、こと建築デザインや製図ではすごく適している!ということではありませんのであしからず。
トラックボールマウスの特徴
- 親指でカーソルを操作するタイプで、人気の高いLogicoolのSW-M570の進化版とも言われております。親指で操作するためなのか、他種のトラックボールマウスと比べてカーソル移動の幅が小さいという感想です。
トラックボールマウスの歴史は意外と長く、軍の潜水艦やセンサーの操作台に実装されていることもあるそうです。
その最大の特徴として、まずはトラックボールといわれるものがマウス本体に埋め込まれているので、その球をタッチパッドのようにスライドさせることで、マウス移動の操作ができます。
一秒一瞬を争い、安全を守らなくてはならない軍の装置にも使われているように、直感的な操作に長けていて、種類によっては指先や手のひらで操作できるので自由度の高いといった利点があり、一般的なマウスと違いセンサーが内装されているので、据え置きで使える分だけ手首の負担から解放されます。
トラックボールマウスで最も知名度があるものはLogicool SW-M570、親指でトラックボールする形のマウスですが、他にもELECOMやKensingtonのメーカーのトラックボールマウスは人差し指や指先、手のひらで操作できるモデルが揃っており、使いこなすまでには1週間ほどの慣れが必要ですが、さらに素早く大きく負担も少なく直感的に操作できるようになります。
慣れが必要ですが持ち運びもできて、使いこなせば非常に速く操作できる指先で動かすタイプのマウスです。普段は下の二種類のマウスを使っています。
- 人差し指中指薬指を使ってトラックボールを操作できるのと、カーソル速度を必要に応じて変更できる点、ダブルクリックなどのボタンと親指のクリックを組み合わせてモデリングがかなり楽になりました。おすすめできるマウスです。
- こちらは有線、手のひらでカーソルを操作するタイプで、ボールが固定されていないので、持ち運びには不便ですが、デスクトップPC用に据え置きして使用しています。ボタンによるカーソル変速ができないので、細かい操作性とホイールの操作とカーソルの動きが若干連動してしまうところが3Dモデリング中に気になりましたが、全体的な性能は他のトラックボールマウスと同じでおすすめできるマウスの一つです。
ゲーミングマウスの特徴
- トラックボールマウスと合わせて使っていたゲーミングマウスです。カーソル変速ボタンが付いていることと、有線であること、クリック部分の耐久性が高いこと、標準的なマウスと操作の感覚が変わらないので、結果的に腱鞘炎が悪化してしまい、他人にモデルなどを操作してもらう用に携帯していました。ホイールの部分が先に故障してしまったので、修理をするか新しいマウスを買うことを検討しています。
ゲーミングマウスは FPSや射撃系のゲームに使用されるような光学マウスのことで、複数のボタンが備えられている種類が多く、ダブルクリックやCtrl+Cといったキーコマンドといったマクロを割り当てられるものがあります。
- ゲームプレイ以外に図面の設計でも活躍できるような操作の精密性の高さ、ボタンやホイールの耐久性の高さやメーカー保証のサービス、そして個人に合わせたマウスの大きさ重さを選べるところが最大の強みでしょう。
トラックボールマウスも性能面ではゲーミングマウスに遜色ないのですが、ふとした時にいきなり使ったことがない人にトラックボールマウスを操作させるのは難しいでしょう。
頻繁にPCでデザイン案を討論することがあったり、他人にも3Dモデリングで操作してもらうことがあるのなら、ユーザーを選ばないゲーミングマウスをあえて使うのも悪くありません。しかし腕や手首から腱鞘炎の負担を根本からなくしてくれるわけではないので、自分で長く作業することを考えるならトラックボールマウスを検討してみるのが良いと思います。
トラックパッド(Mac操作)の特徴
- 個人的にMacよりはWindows派なので、なかなか触れる機会は少ないのですが、他の人のMacを借りたときに、ジェスチャーを使ってみたところスムーズに操作できました。しかし建築ソフトのインターフェースとは少し相性が悪い、長時間での作業は疲れるかもといった懸念も残りました。
MacOSの環境で操作するならトラックパッドだけで設計図面を描いている人も少数派ではありますが、押し込み機能、デスクトップを表示、スワイプ、プレビューなどの便利なジェスチャー機能がついているので一部の方が特に好んで使用しております。
手首や腕で操作しない分、逆に指に負担が集中する構造になっているので、ドラッグ作業が多いモデリングやフォトショの手直し作業ではストレスに感じてしまう人も少なくありませんし、逆に指の腱鞘炎なってしまうこともあります。
マウスと併用するのが一般的な使い方です。自分に合う方法をいろいろ探しましょう。
ペンタブレットの特徴
- イラストを描きたい!と思っていた時期に購入したペンタブレットです。絵を描くだけではなく、マウス操作の代わりとしてもスムーズに作業が行えるのが良いところです。ですが、これを使って設計している人は知り合いに1人しかいません。後述に3Dモデリングや建築デザインには向かない理由を書いています。
意外なことに腱鞘炎の痛みが軽減できると評判なのが、画像やイラストを描くのに使われるペンタブレットになります。
Wacomのペンタブレットが疲れにくいことでも有名で、建築のラフスケッチをPCで描く人が非常に少数ですがマウス代わりにもペン操作で好んで使用しています。
直感的で曲線の描画が可能になるなど新鮮な操作感が特徴で、タブレット上にピンポイントでペンを近づけるとカーソルを移動できるので大きなカーソルの移動が可能のほか、フォトショでの画像編集など細かい作業が劇的に速くこなせるようになります。一番小さいサイズでもキーボードと同じだけの大きさになるので、据え置きのデスクトップで使うというやり方が現実的でしょうか。
- ペンやタブレットの大きさや重さが選べますが、腕への負担の点から最小で軽量のものを選ぶことをおすすめします。
しかしCADなどでのインターフェースでは、右利き使用者の右クリック時のポップアップの選択肢がちょうど手で隠れてしまうような設計になっていたり、繊細な手の動きをすべて反映してしまっているがためペンが滑って誤操作が増えたり、ペンタブレットの操作にインターフェースが対応していないことが現段階で大きな入力障害になっています。ペンタブレット操作での3Dモデリングはまだ難しいと思われます。
マウス、パッドを複数所持する
関節や筋肉の局部を長時間酷使するのが、腱鞘炎を悪化させる一番の要因になります。普段はトラックボールマウスとゲーミングマウス・トラックパッドなどを組み合わせて腕が疲れた時にマウスを変えて操作する、といった工夫をくわえることで症状の回復につながります。
休憩をしっかり挟み、作業量を調整するのも有効でしょう。腕などの筋力が少ないことにも起因しているので、適度に運動をするのも重要なことになります。
まとめ
3Dモデリングの反復作業が腱鞘炎を悪化させる根本原因であること、そして手首・腕に優しい様々なマウスや入力ツールの特徴や建築ソフトとの相性、マウスを疲労に合わせて変えて使う、などの対策方法を紹介してみました。
職業病とも言われる腱鞘炎にどうやって付き合っていくか、どうやって予防するのかを考え、自分にあった道具を使うことが職業寿命を延ばすことにつながると思っています。