建築デザインからプレゼン製作までを前提にノートパソコンに必要なスペック、注意点を解説します。
ノートパソコンの選択
OSの選択
OSとはオペレーションシステムの略称で、パソコンの基本操作を左右する根幹部分になります。主流OSはWindowsとUnix系(Mac OS)の二つになります。
WindowsかUnix系(Mac OS)
ユーザーシェアで言うと、WindowsはMac OSよりもたくさんの方に使われているOSになります。
その理由として、建築デザインに使用される3Dモデリングや製図ソフトのほとんどはWindows向けに作られたものであり、MacのOSに対応されていないことがあるからです。そのため、MacのPCにはWindowsのOSを使えるように両方のOSを搭載することもできます。
これからMacのパソコンを購入される方も、OS環境をWindowsに合わせることもできますし、操作に慣れてくると、基本OSの違いだけでできることに差がつくことはありませんので、ご安心ください。
WindowsPCの特徴
シェアの多さと対応している電子機器の広さから、Windowsのノートパソコンにはいろんな出力端子が揃っており、HDMIやD-SUBなど、Macにはない外部端子の豊富さがあります。
HDMIなどの外部端子はプロジェクターや液晶画面に繋げてプレゼンをする際に使用されます。
MacPCの特徴
Macはアップル社の製品であるiPhoneやiPadとの連携がスムーズで、PC筐体デザインもほかのPCとは異なる良さ、そして画面の解像度や美しさに定評があります。
ノートパソコンの用途
建築設計に必要なソフト環境と、プレゼンに必要なソフト環境を整えることを前提に、必要最低限のスペックを備えているノートパソコンを選ぶことをおすすめします。
建築設計・プレゼンに使われるソフト一覧
建築設計・プレゼンに必要なソフト(Windowsでの対応を基本)は、
- ソフト名 +(用途)の説明になります。
- SketchUp Pro(3Dモデリング)
- Vray for SketchUp(レンダリング)
- 3dsMax(3Dモデリング)
- D5 Render(レンダリング)
- NIVIDIA GeForce Experience(D5 Render駆動時使用)
- Rhinoceros+grasshopper(3Dモデリング・プログラミング)
- Vray for Rhinoceros(レンダリング)
- Enscape(レンダリング・動画)
- KeyShot(レンダリング)
- ArchiCAD(3Dモデリング・製図)
- Revit(3Dモデリング・製図)
- Blender(3Dモデリング/都市/地形作成)
- Lumion(3Dモデリング・レンダリング)
- AutoCAD(製図)
- ArcGIS(地図データ・地形データ・都市設計編集)
- Python(拡張アドオン・プログラミング)
- GoogleEarth Pro(衛星写真資料)
- Adobe Creative Crowd (下記4項ソフトの総称)
- Adobe Photoshop(画像編集)
- Adobe Illustrator(ベクトルデータ編集)
- Adobe Indesign(レイアウト編集)
- Adobe Premiere(動画編集)
- Adobe Acrobat DC(PDFデータ編集)
- Microsoft Office (下記3項ソフトの総称)
- Microsoft Office Word(文章・原稿編集)
- Microsoft Office PowerPoint(プレゼン編集)
- Microsoft Office Excel(表計算)
- Slides(オンライン専用/完全公開・プレゼン編集)
- Googleスプレッドシート(表計算・クラウドアクセス)
- XmindZEN(マインドマップ編集)
- Tableau(統計・表計算)
- Safari / GoogleChorome(ネット検索エンジン)
- Googleドライブ(クラウド・オンラインストレージ)
- OneDrive(クラウド・オンラインストレージ)
- iCloud Drive(Mac用クラウド・オンラインストレージ)
- Twitter/Facebook/LINE(SNS・連絡伝達)
以上になります。ソフトのバージョンによっては併合されているものもあります。
3Dモデリング/製図ソフトの概要
3Dモデリング・製図ソフトは、建築デザインで3D模型を製作する根幹になります。
- SketchUp Pro(頻度高)
- ArchiCAD(頻度高)
- AutoCAD(頻度高)
- 3dsMax(頻度中~高)
- Rhinoceros+grasshopper(頻度中)
- Revit(頻度中)
- Blender(頻度少)
- Lumion(頻度少)
- ArcGIS(頻度少)
使用頻度の高いものからソフトをまず揃えるとすると、SketchUp Pro、ArchiCAD、AutoCADの三つがあれば、ラフのデザイン案から最終デザイン案、製図までのほぼ全ての作業をこなすことができます。
頻度が少ないソフトは補助として、特殊な設計をするときや、ソフト内の一部の機能を時間短縮のために使用することがあります。
ArchiCADやRhinoceros、Revit、Lumionなどのソフトは高性能で、設計の複雑度と模型の規模によってはPCも相応の性能が必要になります。
レンダリングソフトの概要
レンダリングを行う場合、GPUを付属している高性能PCであることが必須条件になります。PC性能の解説については後述しますが、D5 Renderはグラフィックカードの性能がGTX1060X以上である必要があります。
- Vray ChaosGroup(下記2項)
- Vray for SketchUp
- Vray for Rhinoceros(Rhinoceros最新バージョンでは標準搭載)
- D5 Render(GTX1060X以上)
- Enscape(SketchUpとRhinocero両方対応)
- KeyShot
上記のソフト以外にも3Dモデリングソフト内に直接レンダリングができるものもあります。
プレゼンボード編集ソフトの概要
建築モデリングと製図でプレゼンに必要な素材が集まり次第、画像編集やボードに通して最終的なプレゼンボードを制作していきます。
- Microsoft Office (下記2項)
- Microsoft Office Word(必須)
- Microsoft Office PowerPoint(必須)
- XmindZEN(頻度高)
- Adobe Creative Crowd (下記3項)
- Adobe Photoshop(頻度高)
- Adobe Illustrator(頻度中)
- Adobe Indesign(頻度中)
- Adobe Acrobat DC(頻度中)
- Slides(頻度少)
- Adobe Premiere(頻度少)
Adobe Photoshop、Illustrator、Indesignなどの画像編集ソフトでは、特に扱うデータ、ファイルの大きさと数量がPCのメモリ性能に依頼する部分があります。他に動画を編集する場合も、PC性能に操作性が左右される要因となります。
資料収集/編集ソフトの概要
主にデザインに使用する敷地情報であったり、分析や統計結果などの資料を記録したり、クラウドに保存しておくためのソフト・サービスになります。
- Microsoft Office Excel(頻度高)
- Safari / GoogleChorome(頻度高)
- クラウドサービス(下記3項など)
- Googleドライブ(頻度高)
- OneDrive(頻度高)
- iCloud Drive(頻度高、Mac用)
- GoogleEarth Pro(頻度中)
- Googleスプレッドシート(頻度中)
- Tableau(頻度少)
分析をメインにするデザインでは敷地情報を正確に記録することが重要になりますが、室外でのフィールドワークでもスマホや携帯端末で直接クラウドなどに資料を送れるよう設定し、後にPCで情報を編集できるのが好ましいです。
PCの性能に関する基礎知識
PC三大要素(建築デザイン用)
まずソフトを活用するためにPCに備わる、マザーボードとCPU、メモリ、グラフィックカード(GPU)の3つの総合的な性能を知る必要があります。
マザーボードとCPU
マザーボードはPC全ての核になる連結部品で、ブランドによって製品の表記が異なり、PCの性能を決める大きな部分になります。
CPUはCentral Processing Unitの略称でマザーボードを構成する要素のひとつです。PCの操作の処理速度はCPUの性能に左右され、周波数や消費電力、コアの数など総合的な数値がCPUの性能に影響します。
メモリ
メモリは同時に処理できる容量を示しており、マザーボードを構成する部品のひとつでもあります。ソフトの同時稼働を安定させるのにメモリの大きさが関係し、並列してソフト作動させることが多いプレゼンボードの製作には、少なくとも16GB~32GBのメモリが必要になります。
グラフィックカード(GPU)
グラフィックカード(GPU)は3Dモデルの描画速度を意味し、3Dモデリングソフト、画像編集ソフト、動画編集ソフト内での処理時間に影響します。長時間あるいは大量のデータを処理する際にGPUの性能が顕著に現れます。
Lumion、MayaやD5 Renderなど、3D画像処理に対応できる性能のGPUを要求されることがあるので、使用頻度と兼ねて、ソフトごとに推奨されているGPUの性能を個別に確かめる必要があります。
PC使用を左右する要素
基本性能以外にも画面の大きさ、画面解像度、ストレージ、冷却機能、騒音、バッテリー駆動時間、PCの重量、キー配列など様々な面でPCの操作を左右する要素があります。
画面の大きさ
画面の大きさはテレビと同じで、画面の対角線のインチ単位で決められています。
- 軽量級サイズは11~12.5インチのPCで、画面が小さい分、バッテリー駆動時間が長くなります。解像度を高くすると文字が見えにくくなることがあります。
- A4サイズは13~14インチまでのPCで、小ぶりなバッグでも入りやすいサイズになっています。
- 中量級サイズは15~15.6インチのPCで、最もオーソドックスな型になります。画面が大きいので筐体も大きく、重さも2kg前後のものになります。
- 重量級サイズは17インチ以上のPCで、かなりのサイズになるので、持ち運びには適しません。画面が大きさがバッテリーの長時間駆動に影響しています。自宅用に据え置きするのが良いのかもしれません。
画面解像度
画面の解像度はドットで表記されますが、ドット数が大きいものであればディスプレイがきめ細かく見えるようになります。解像度の代表的なものとして、
- VGA 640x480
- XGA 1024x768
- SXGA 1280x1024
- WXGA 1280x768、1366x768、1280x800
- HD 1600x900
- UXGA 1600x1200
- FullHD 1920x1080
など、以上のように名称で区別されております。画面の縦横比も解像度によって決まります。画面を周辺機器に出力する際も、解像度の高さは必要になるので、FullHD前後の解像度があれば良いと思います。
ストレージ(SSDとHDD)
PCに保存できるデータの容量を示しております。HDDはHard Disk Driveの略称で、SSDはSolid State Driveの略称になります。SSDとHDDの二種類に分かれていますが、それぞれ容量と速度、耐久性、消費電力、発熱度合いが異なります。
建築デザインに使用されるソフトの特性から、SSDとHDDを両方搭載しているPCモデルを推奨します。
CPU冷却装置
長時間使用する際にCPUの熱はPCをオーバーヒートさせることもあり、過放熱してしまうとPC性能が著しく落ちてしまったり、使用寿命を縮めたりしてしまいます。
特に冷却ファンなどの部品はノートパソコンでは付け加えが効かないうえ、拡張ファンの放熱効率が低いため、購入の段階で冷却装置の性能が高いもの、あるいは排熱デザインが施された筐体を検討することをおすすめします。
騒音
PCが最高速度で処理動作を行う場合、CPU冷却ファンなどの騒音が仕事環境で気になったり、キーボードのタッチ音が思ったより気になるといったことがあります。
PCの騒音が気になる方は、店舗でPC比較を聞いてみたり、ネットのPC使用レビューなどを調べてみるのをおすすめします。
バッテリー駆動時間
バッテリー駆動時間は充電をしていない状態でPCを使える最長時間のことです。画面の明るさや、PCの処理動作の量によってバッテリーの消費量が変化します。
メーカーによるPCの宣伝上、バッテリー駆動時間は公称値よりもだいぶ短い傾向にあります。3Dモデリングソフトを使用する際は、充電をしながらであることを念頭に置きましょう。
PCの重量
PCの重量は持ち運びの手軽さやPCの性能面に大きな影響があります。PCを選ぶ際にはPC本体+充電機器と周辺機器の重量を判断の目安にしますが、総重量が重過ぎる場合、常に携帯するのは難しいかもしれません。
一方、軽いPCだとその分冷却機能や排熱性能に難があることが多く、CPU、GPUの性能が良くても高性能建築ソフトを十分に生かせないことがあります。
キー配列
一般的な事務専用PCと比較した場合、キーボードの配列がメーカーによっては異なる場合があります。
例として、Macなどのアップル製品、ゲーミングPCなどのデザイン性に定評がある製品ではキーボードの素材や使用感、配列を標準のものよりアレンジしていることがあります。筐体の大きいPCではテンキーを付属しているものもあるので、好みに合わせて選びましょう。
建築用ソフトをフル活用できる推奨スペック
目安
建築用ソフトを十分に活用できるスペックの目安として、
上記の条件を満たしたものがよろしいと思います。
具体例
建築用ソフトをフル活用できるという推奨スペックの具体例として、
- 薄型ゲーミングPC (Alienware、MSIなど)
- Windows OS(Windows 10)
- CPU Core i7-8750H
- メモリ 16GB
- GPU GTX1060x(ゲーム向け)/Quadro(CAD向け)
- 画面サイズ 15.6インチ
- 筐体 大型、排熱デザインあり
- 解像度 1920x1080
- ストレージ SSD256~512GB、HDD512GB
- バッテリー駆動時間 3~5時間(通常使用時)
- 最大処理速度時の騒音 大
- 消費電力 大
- PC重量 約4.5kg
- 値段 20万円前後
- 使用年数 4~5年
上記のようになります。
薄型ゲーミングPCを選んだ理由として、デスクトップPCに劣らない性能を持つことで外出時、資料収集時にもデスクトップPCとほぼ同じ任務がこなせるようになること、そして資料作成から3Dモデリング、レンダリング、プレゼンボード製作を一貫してノートPC内だけで行えるようになるからです。
排熱がしっかりしているゲーミングPCだと、長時間の使用にも耐えてくれるのと、使用年数がビジネス用PCよりも長くなることが最大の強みになっています。
この例では、持ち運べるデスクトップPCという立ち位置になっています。さらに厚型ゲーミングPCであれば排熱の問題は解消されるでしょう。
ノートパソコン選択時の注意点
メーカーごとの比較
メーカーごとに性能比較の基準と値段帯が大きく違うことがありますが、建築デザイン専用に販売されているノートPCは特にありません。
建築を勉強する人ならとりあえずMac!とりあえずIntel!ということはありませんので、ぜひ使用者からの感想を元にメーカーごとの利点を判断してください。
ノートPCは消耗品
建築用ソフトは非常にPCを酷使します。メーカーの定期メンテナンスを利用したり、部品を取り替える事で操作性が改善することがありますが、基本は3年から5年もすれば部品は劣化して性能が落ちていきます。
年間5万円の使用料を払ってサービスを利用しているんだという風に割り切って考えましょう。
個人のデザインスタイル
デザインスタイルによっては、レンダリングやCGを多用しなくても済みます。
デスクトップPCで3Dモデリングやプレゼンボードの編集を担当し、プレゼン資料だけをノートPCで編集する場合、ノートPCの役割を減らせるので、PCの性能を落としても構わないと思います。
補足
新しくまとめたPC選び方の記事です。